「‥‥お前、歯とか舌ってあんのか?」
その言葉に、机上でおっとりお食事中だった生物が素早く目を上げたのに、逆にイギリスは驚いたものだ。
特に意味もなかった台詞である。あえて言うなら素朴な疑問、というヤツだ。
いつからか居るのか、どこから来たのか。
一切合財謎だらけのそのふにふにした生物は、気がつけば執務室の机の上に居て転寝していたり、紅茶を入れようとキッチンに立てば棚のメイプルシロップの瓶をきらきらした目で見つめていたりする。まっしろで、手触りは良い。少し柔らかめの蒸しパンのようだと思っていたのだが、つい先頃訪ねてきた東洋の友人に「我が家の『もち』という食品に良く似ていますねぇ‥‥」と言われて以来、勝手に『もち』と呼んでいた。
‥‥どことなく、なんとなく、誰かに似ている気もするのだが、何故だか思い出せない。妖精の悪戯だろうか。
「んー‥‥?」
イギリスは卓上でキャベツのメイプルシロップ掛けをもしょもしょと食べていたモチを、手のひらに掬い上げる。急な視界の転換に驚いたのか、「みっ!」と小さな可愛い声がなんとなし面白い。ふにふにとつつけば「みっみっ、みーぅ」と妙に朗らかな鳴き声(‥‥なのだろうか、やはり)をあげる。つついてくる指が嫌なのか、手のひらの中をもしょもしょと移動しようとしていた。まぁ無理なのだが。もちだし。
少しおっとりとしたアクションのその生物は、その後もしばらく嫌がるようにもしょもしょと動いていたのだが、結局諦めたのか単純に疲れたのか、「みー‥‥」と一鳴きすると、ぺしょりと止まってしまった。
さすがに遊びすぎたか、と慌てたイギリスは、同じ指先で今度は優しくなでてやる。
ふにふにとした白い肌は柔らかく、少し温かくて気持ちが良い。
どうやらつつかれるのは嫌でも、なでられるのは嫌いではないらしいその生物も、暫く後には目を開けて、イギリスのほうへとチラリと視線を向けてきた。
綺麗な、湖水色だ。
「あー‥‥キャベツ食うか?」
「みっ!」
イギリスはメイプルシロップの掛かったキャベツを同じ手のひらに載せてやる。‥‥当初はウスターソースを掛けて出していたのだが、どうしても食べようとしなかったので、仕方なしこの生物がいつもキラキラした視線で見つめているメイプルシロップを掛けてやったら、漸く食べるようになったのだ。‥‥もち(?)の味覚はよくわからない。
「みー、みっ」
「美味いのか?」
「みっ」
「そか」
もしゅもしゅと、繊維が咀嚼されていく音がする。‥‥ということは、歯はあるのか。‥‥舌もあるのかやっぱり。
「なぁ、もちー」
「みっ?‥‥み、みみゅっ、みー‥‥ッ!」
‥‥‥‥お、あった。やーらけーな、おい‥‥。
イギリスはチュ、と最後に妙に可愛い音のしたキスを止めると、ようやっと解決した疑問に晴れ晴れとした気分でふにふにとした生物を撫でてやった。
‥‥柔らかくてあったかい。なんとも可愛い生き物だ。
うん、これからも傍に置いておけたらいい。
妖精か何かかよくわからないが、悪いものではないのだろう、だってこんなにも可愛いのだ。
ふにふにと小さな生物を愛で、撫で続けるイギリスの手のひらで、ふにふにと真っ白な肌がほんのり桜色になっていたことに、イギリスは気がつかなかった。
the end.
無生物萌えできるイギならモチくらい軽いと思います。(・∀・)
深生サエ