※全体的に色っぽい雰囲気(の、筈)で、それなりに触れ合っています
※年齢制限はかけていませんが、苦手な方は自己回避でお願いします



















※OK?



















「人の最大の性感帯は、脳なんだってさ」




静かな、染み渡るような声をしているとつくづく思う。
例えるなら、分子の小さな物質が優々と透過膜をすり抜け隅々にまで浸透するような滑らかさ、だろうか。
零された声はしっとり潤んだような夜の空気へ拡散し、潤わせ、食んで、染め上げる。
テーブルの上に食べ残された心尽くしの軽食も、中身を吐き出すことで役目を終えた酒瓶も、こうして二人並んで座るソファさえ。気がつけばすっかりと染め上げられ、ただ静かに、眠るのみ。
形の良い指先にホールドされたフルートグラスだけが未だ眠ることを許されず、音もなく琥珀金の水底から細やかな気泡を躍らせている。
グラスの口を指先だけで支えている。短く整えられた爪、白く、少しだけ農作業に荒れた手。そこから続く腕は、ほんの数百年前きらびやかな宮廷で傅かれていた頃とは全く異なる、太く締まった男のものだ。抱き込まれた肩に、ほんのりとした温み。

「ふぅん」
「あら、反応薄いね」

気のない相づちに返されるのは、少しだけ悪戯げな言葉だ。軽やかで、密やか。予定調和という言葉があるが、この男の言葉には、今返すべきものはこれのみとでも言いたくなる、絶対の調和がある。
今この空気に似つかわしい、はみださない、‥‥乱さないよう、優雅に場の空気を従える力。
音もなく全身から染み渡るような、えもいわれぬ、感覚。

「脳は、最大の性感帯なんだってさ。ほら、子どもってやたらと興奮するだろう?あれは、経験がないせいで、どんなことも未知のものとして受け取るから。大人になれば経験値は増し、知らないものも少なくなる。だから、簡単には感動しない、興奮しない。‥‥イギリス?なぁ、聞いてる?」
「聞こえてる」

むしろこの距離で‥‥ソファの上、半ば抱き込まれて少しずつ服を乱されながら聞こえていない、なんて答えれば、それはそれでおかしいというものだ。言葉に偽りはなく、聞こえている。
ただ、言葉の意味を十二分に理解するほどには思考回路を働かせて聞いてはいない、というだけで。
そもそも休日を控えた深夜、酒を飲みつつ理知的理性的に思考を働かせろというほうが無理だ、とイギリスは思う。
酒を飲むときはただ美味いと感じればいい。あとは、その場に相応しい空気を楽しんで、たゆたえばいい。

「イギリス、」

再度の呼び声には応えず、代わりに視線の先、芳しくも美しい液体を満たしたグラスをイギリスはするりと掠め取った。しかし、イギリスがグラスの脚へ指先を触れさせた瞬間、まるでそうされることが分かっていたかのようなごく自然な加減で男の指先から力が抜けたのに、奪った筈が渡されたような感覚を持ってしまい、ほんの少しの不満めいた気分が残る。
そんな恋人の微かな感情の推移さえ男には伝わるのか、触れ合わせた身体がほんの少し身動いで、イギリスは彼が笑ったのだと知った。

「‥‥んだよ、」
「んー?いえいえ、坊ちゃんはいつも可愛いなぁって思っただけ」

耳元で囁かれた言葉を無視して、フルートグラスを軽く揺する。目線の高さに上げたグラスの中で、金色の液体が優雅に震えた。
無秩序の秩序とでもいうのか、湧き上がる炭酸の軌跡は例えようもないほどに美しいと、イギリスは考える。
はるか昔から親しんだ液体だ。‥‥この男の肥えた舌に合うものしか自分へは渡らないから、きっとそれは世界でも最高のものなのだろう。
美しく華やかな容姿、繊細な味覚やそれらを支える細やかな感性。‥‥世界が憧れる、なんて冗談でもなんでもない、男なのに。
クッと喉奥で嘲るように笑って、隣の男を流し見る。

「テメェの趣味は相変わらず最悪だな」
「そう?お前を選んだ時点で、俺は最高の趣味人だと思うけどね。お前の悪態を聴いてるだけでお兄さんゾクゾクしちゃって、濡れちゃいそう」
「ハッ、言ってろ、変態が」

甘みを増した密やかな声に、視線は合わさずに応じる。
しっとりと潤んだ声。ひたひたと無音で満ちてくる潮のように、密度が上がっていく。
もう一度強く揺らしたグラスの中、細やかな白い気泡を一瞬目に留めてから、一息で煽る。

直後交わした唇は、甘く、鋭く、熱い。

「‥‥ン、ふ、‥‥」
「ッ、ァ、イギリス‥‥っ」

空のグラスを奪い返され、カツとテーブルの上に放られる音を聴く。
背中にソファのスプリングを感じながらシャツの前あわせを肌蹴られ、忍び込んでくる手のひらには抵抗をする術も、気もない。
淫らな水音を立てるくちづけを交わしながらその締まった背中へと腕を絡めて、慎重な手つきで身体の上をまさぐる熱を追う。与えられる、肌に染みてくる感覚に身体を震わせれば、フランスが感じ入ったような息を吐いたのが、イギリスには分かった。
甘いアルコールの匂いと、甘い、極上の笑み。潤んだ声は甘く熱く、夜を濃厚に潤わせ、食み、染め上げる。
皮膚を透過し、身体の奥底まで浸され、侵され。

淫らに、犯される。

「‥‥性感帯、」
「ん‥‥?」

お互いに官能を高めあいながら、潤んだ声でイギリスは言葉を紡ぐ。
それは今肌を合わせる相手のような、染み込み恋人を高ぶらせる声ではないと我ながら思うのだが、こればかりは仕方がない。

「脳が、どうとか言ってただろ。‥‥あれでいくと、経験しすぎな俺らは、不感症になるんじゃねぇの?」

経験値の差が、興奮や感動の有無を制する。たしか、そういう話だったはずだ。
まぁ、与えられる快感に上がりきった息で不感症が云々といったところで滑稽な気もしたのだが、彼の言うとおりなのであれば、千年を越す歳月を渡ってきた自分たちに、快感は、感情は、存在しないことになる。

こうして肌を触れ合わせて与え合う熱は激しく心を揺さぶって、最早手離せないものなのに。

と、恋人の白い内股へと舌を這わせていた男が、その発言にきょとんとしたような妙にあどけない表情を浮かべてから、ふわりと笑い、身体を起こした。

「なんだ、ちゃんと聞いてくれてたんだ?」
「聞こえてるっつっただろうが、バカ」
「えー、だって坊ちゃん、シャンパンに夢中っぽかったからぁ」
「語尾を延ばすな、気色ワリィ」
「ちょ、今まさにえっちしてる相手にキショクワルイとか酷くない?!」
「エッチとか言うなキメェ」
「えっちはえっちでしょー。‥‥ほぉら、こういうの、とか?」
「ひぁ?!‥‥ァ、んッ」

慣らされた指先に跳ねた身体を、イギリスはどうにか押さえ込んだ。
身体の内側を焼く快楽の炎に圧し掛かる男を睨み上げると、いやらしい、雄の笑みを返される。

「やらしい、かーぁいい声でたねー」
「う、るせぇ‥‥ッ、ぁ」
「あの話にはね、続きがあんのよ」

細やかで優しい、しかし容赦のない愛撫を施しながら話す男の声は、やはり滑らかで染み渡るように素晴らしく好い声だ。
誰よりも何よりもイギリスに馴染む声。そして、この男の、フランスの恋人として、自分だけが聞ける声だ。

「経験は確かに感情の振幅を抑えるんだけれど、‥‥同時にね、激しく、煽る」
「え‥‥?」
「経験した興奮を、感動を快感を、人は想像で増幅させるんだ。貪欲な、脳が。記憶が、理性が、本能が、よりいっそうの興奮を求めて思考しつくす。経験に即したそれ以上を求めて、感じようとするのな。‥‥お前と会えない時間、お前のことを考えて、笑顔が見たくて、抱き締めたくて、頭ン中でお前のこと散々に抱いてる。次に会えたとき、もっと感じさせて、もっと乱れさせてやろうって、考える。‥‥堪んねぇよ」
「‥‥は、」




「俺はね、『イギリス』っていう経験にどうやったって興奮するわけ。脳がね、そう感じるから。お前のことをね、考えて、触れて‥‥俺の性感帯、正確に言えば、お前ってことになるのかな?」




甘く染み渡る声。濃厚で、濃密で、浸透率が高く。
肌を吐息を笑顔を通して、イギリスの中に否応なしに浸透してくる。

「も、お前ほんっと、恥ずかし、‥‥ばか、ばかぁ‥‥」
「うんうん、そういう恥らってる坊ちゃんもゾクゾクしちゃう」
「もう、黙れよお前‥‥」

甘すぎる睦言はいっそ居た堪れない。それが、普段から自分に対して甘い恋人の声ならば尚更だ。染み込む声が、囁かれる睦言が、いっそ痛いほど‥‥堪らない、快感だ。

「いいから、なぁ、早く‥‥ッ」
「ん?‥‥うん、そうだな、‥‥早く、最高に気持ちよく、なるか」

蕩けた声で強請り、欲に掠れた声で挑まれて。
あとはもう脳の紡ぎだす、互いの紡ぎだす快楽に身を任せて、乱れるだけ乱れればいい。
奪い合い引き剥がした服、ソファのスプリングの軋みや、汗に濡れて滑る熱い肌の感触。穿ちこまれて身体の隅々まで痺れるような、身体感覚。

「ッ、ぁ、イイ、はぁ、イギリス‥‥ッ!」
「あ、あっ、‥‥んー‥‥ッ」

濡れた喘ぐみたいな呼び声に、脳が、心が。反応する。
この男を好きだと、その身体に、声に愛情に抱かれながら、感じる。









なるほど確かに、この男の言うとおり。フランスの全てが、イギリスの最高の、性感帯なのだ、と。









  Everything you always wanted to know about XXX





the end.(2009.09.10)

微妙に論理破綻してるんですが、睦言とは基本戯言だと思うので大目に見てください^^
冒頭兄ちゃんが言ってるのはウディ・アレンの名言。100%同意