『なぁ、本読んで』
『ったく、仕方がないなぁ』









理論と実践は違う、と初めに言ったのは誰だったのだろうか。
イギリスはつくづくと思う。
なるほど、理論と実践は違う。頭の中で思い描いたプランがどれほど完璧なものであったとしても、実際に行動に移してみれば様々な障害、予期しないアクシデント、あるいは運のなさや妖精のイタズラによって、予想もしていなかった方向に事態が転がるというのは、ありがちなことである。また、世間一般にアレはこうなる、といった通説めいた事々も、実際に事に当たってみれば全くもってその通りではなかった、などというのもこれまたありがちなものなのだ。
理論と実践は違う。最初に言った人間は、さぞこの世の無情を味わったのだろう。

もっとも、イギリスが味わっているのは、無情とはまたちょっと違ったものではあったのだが。

「ねぇ、いぎりすってば!」
「いぎりすさぁん‥‥」
「はいはい。‥‥ってか、お前ら、眠くないのか?」
「ないんだぞ!ね、カナダ?」
「うう、ないもん‥‥」

ないのか、そうか‥‥。
イギリスは内心で呆れたような、たまらなく嬉しいような、なんとも言い難い様々な感情を綯い交ぜにした上で、軽く笑って見せた。
その笑みに、ぽふりと柔らかな感触と、温かな体温が寄り添ってくる。
身体の両脇から寄せられた小さな温みと甘い匂いのする子どもの身体を、イギリスは優しく微笑みながら両の手で撫でさすってやった。軽やかで密やかな笑い声、なおいっそう寄せられる温もりが、愛しい。
カーテンを引いた、窓の外は夜。
新大陸の夜は厳しく、冴えた風が闇を従え踊っている。
ふんわりとした羽毛仕立ての上掛けに覆われた下半身は、とっくの昔に明日の為の休息を求めて眠りたがっているかのように、ぽかぽかと温かだ。身体を包むナイトウェアは上質のコットンで縫い上げた自作のもの。
勿論、こうして両脇に寝転んで片や眠そうに、片やきらきらとした瞳でイギリスを見上げてくる子ども達二人に着せている真っ白なパジャマドレスも、彼自身の手によるものだ。

「ねぇってば、続き!続きが聞きたいんだぞ!」
「んぅ、うー‥‥いぎりす、さん。おはなしして‥‥?」

もしょもしょと擦り寄ってくる小さな身体に、イギリスの膝上に乗せた古い古い物語の本がパサリ、と鳴いた。




はるばると大海を越えてやって来るイギリスに、二人の子どもが絶え間なくじゃれつくのはいつものことであった。
本国は遠く、二人の子どもはまだ幼く。それを思えば、子ども達‥‥アメリカとカナダが、長くは一緒に居れない彼、兄であり養い親でもあるイギリスに朝から晩までまとわりつきたがるのは、当然であるとも思えた。イギリスはそんな子ども達を愛しく思ったし、子ども達もイギリスが居ない間に垣間見せる『国』としての自覚や冷静さをひととき取り払って存分に甘えたものだ。
柔らかで甘い匂いのする小さな身体をちまちまと動かして、兄たるイギリスにまとわりつく。彼の腕に抱かれてキスを受け、抱えきれないほどのプレゼントに笑い、彼の作った食事を食べ、そして3人で、温かな床につく。
ベッドの中、本を読んでと子ども達がせがむのは、いつものことだった。
そして、子守歌代わりの読み聞かせに、ちっとも眠ろうとしないところも、いつものことで。

‥‥子どもってのは本を読むとすぐ眠る、なんてどこの誰が言った大嘘だ。

イギリスは寝台のヘッドボードに背を預けて革張りの物語集を繰り、ゆっくりと読み聞かせを続けながら、つくづく思ったものだ。
すでに床について、結構な時間が経っている。

「‥‥そうして、騎士は美しい姫君といつまでも幸せに、暮らしました。‥‥はい、終わり。さ、もう二人とも寝ろ」
「ええ?ねぇ、イギリス、もっと聞きたいんだぞ」
「‥‥聞き、たいんだ、ぞ、」

甘えた子どもの声と、物語集を閉じる音が綺麗に唱和する。そのなんとも愛らしいおねだりに、イギリスは内心苦笑しながらも顔だけは鹿爪らしく首を振って、両隣の子ども達の頭を撫でた。

「だーめーだ。‥‥ほらカナダ、無理しないで寝ていいから。いい子だからおやすみ。な?」
「やぁ、ねぅく、ないぃ‥‥」
「あ!カナダ寝ちゃ駄目なんだぞ!」
「こらッ。アメリカ、カナダを起こすな」
「わぁっ!」

イギリスの腰にしがみついてとろとろとした眠りにつこうとするカナダに、反対に寝転んだアメリカが兄の身体に身を乗り出して手を伸ばし、起こそうとするのを、イギリスは小さな身体を掬うように抱き上げて窘めた。
じたじたと小さな身体が暴れるが、両脇の下に手をいれて吊り上げれば多少の身動ぎなどイギリスには何の苦にもならない。アメリカもカナダも、まだまだ小さな子どもなのだ。
暫くの間、そうしてじたじたと手足をばたつかせていたアメリカであったが、イギリスが心持ち眉を寄せて無言で見つめていると、ばつが悪くなったのか単純に疲れたのか、はふ、と小さな息をついて大人しくなった。
ひらひらと翻っていたドレスの裾が、ふわりと落ち着く。

「うー‥‥」
「ったく、もう。‥‥ほら、来い」

ふくふくとまぁるい頬を膨らませてイギリスを窺ってくる様子はそれはそれは可愛い姿ではあったが、甘やかしてばかりでは教育上よろしくないのも事実だ。
脇を持って吊り上げたまま、正面から目を合わせて視線で咎めれば、夜目にも鮮やかなスカイブルーにぷわりと水の膜が張る。普段はおっとりとしたカナダに比べきかん坊で気の強いアメリカだが、やはり眠いのだろう。涙目でふっくりとしたこどもの腕をイギリスへと伸べてくる甘えた可愛らしさに、イギリスは耐え切れずに破顔して、己の胸に凭せ掛けるようにして抱き締めた。
柔らかく小さな身体、甘い、子ども特有の匂い。
スンスンと鼻を鳴らして、懸命にしがみついてくる指先が、この上もなく愛しい。

「いぎりちゅー‥‥」
「ああ、わかってるから。本は明日、な?もう今日は寝よう」

ゆっくりとしたリズムで小さな背中を優しく撫で、あやす。
温かい、心地よい重みだ。可愛く愛しい、息子であり弟である存在。何とも引き換えになどできやしない、大切な子ども。

「‥‥明日?ほんとに、明日も読んでくれる?」
「ああ、勿論」
「明日も、いっしょに、いてくれる?」
「‥‥ああ」

言葉少なに頷けば、きゅ、とほんの少しの力でしがみついてくる。
‥‥寂しい思いをさせているのだろう。兄弟としてカナダを連れてきたとはいえ、衣食の支度などはイギリスが手配したメイドたちに任せきりなのだ。
イギリスは改めて小さなアメリカを抱きなおすと、もうずいぶんと眠気の勝ってきたスカイブルーの瞳に優しく優しく笑いかけ、約束した。

「明日もいるよ。明日も、あさっても。‥‥いれるだけ、お前の傍に」
「‥‥うん」

ふわりと解けた瞳が眠りに沈んだのを見計らい、そっと寝台へと横たわらせる。肩までしっかりと上掛けで覆い、健やかな寝息に声を立てずに笑ったところで、ツイと逆側から夜着の裾を引かれた。

「うー‥‥」
「ん、そうだな、カナダ。お前の傍にも、ちゃぁんといるからな?」
「んん‥‥」

もそもそと擦り寄ってくる身体を抱き寄せて額を撫で、ふんわりとしたメイプルシュガーカラーの髪を梳く。まるい頬をふにっとひとつつつけば、嫌がるように首を振ったあと、その指先に甘えたように擦り寄ってくるのが、愛らしい。

‥‥抱き締めてキスをしよう。プレゼントを抱えて海を渡り、温かな食事を作って、そして柔らかな褥で絵本を読んで、共に眠ろう。

愛らしい、愛しい、大切な。俺の子ども達。




「お前達の、傍に居るよ」




そっと呟いたイギリスは、小さく愛しい子ども達に寄り添われて、眠りにつく。
革張りの古い古い物語集が、健やかに眠る3人を静かに眺めていた。














「懐かしいな‥‥」
「何が?」
「ッ、」

背後、至近距離での囁きに、イギリスは思わず振り向き様に手にしていた書物の角をその声の発生源へと叩き込んだ。‥‥思わずの行動がやたらと暴力的なあたり、まだまだ過去の素行が抜けきっていない紳士である。
ふぎゅあッ!となんとも間の抜けた声が上から下に落ちていくのを、イギリスは跳ねた心臓を綺麗に押し隠して、文字どおりの上から目線で足元に沈んだ腐れ縁を眺め遣ったものだ。

「ちょ、坊ちゃんてばなんでそんな暴力的なの‥‥」
「ああ悪ぃな、汚物は即行排除しろってDNAの命令が」
「DNAレベル?!」
「うわ、本傷んでねぇだろうな‥‥」
「いやいやいや、まずは痛んでるお兄さんの麗しいお顔の心配とかしようよ?」

おお痛い、などとわざとらしく嘯きながら立ち上がるフランスを尻目に、イギリスは即席凶器になってしまった本を丹念にチェックした。なにせ年代物なのだ、衝撃に綴じ目が緩くなっても不思議ではない。

古い、古い書籍だ。幾度か補修はしたものの、表に張った皮も薄く乾燥して磨耗し、箔押しで施された美しい書体の題名もその縁をぼやけさせている。
今イギリスがいる書斎、彼の屋敷の書棚には、もっともっと古い年代のものも置いてあるのだが、‥‥これはやはり、イギリスにとって特別なのだ。

「なにイギリス、ご機嫌だねぇ」
「あ?ああ‥‥」
「何見て、って‥‥ん?」

したたかに打ち付けられた頬を撫でさすりながら立ち上がったフランスが、イギリスの手にしたものに気がついたらしい。
肩越しに覗き込んで来たフランスに、イギリスは機嫌よく、得意げにその本を見せたものだ。

「これなぁ、アメリカとカナダがちっせぇ頃、すっげぇ好きだった本でさ。もう新大陸に渡るたび、寝る前に『いぎりちゅ♪これ読んで!』ってせがんでくるのな!もー、可愛いのなんのって!カナダなんかな、読んでるうちに眠くなるくせ必死で起きようとしたりしてよ、っつかアメリカなんか端っから寝ようとしねぇし。誰だよ絵本読んでやったら眠くなるとか言ったヤツ。ホントなぁ、ひとつ読み終えてこれで終わりって言うたびまだ読んでくれっつってねだってくるのとかマジ可愛かったんだよな、まぁお前は見れなかったわけだけどな!ははは好きなだけ羨ましがれ‥‥って、おい?」

パラパラと本を捲りつつ、背後に立っているだろう相手に得意げに滔々と話していたイギリスの肩に、不意にずっしりとした重みと温みがかけられた。今度は本で殴ることはしない。僅かに首を動かして見た先の美しいプラチナブロンドに頬をくすぐられて、背後のフランスが己の肩口に額を押し付けるようにして頭を凭せ掛けてきたのだと気づく。
ふわりと鼻先を掠めた甘いお菓子とフランスの匂いに、イギリスは一瞬甘く身体を震わせて、けれど必死で平静を保って、問いかけた。

「‥‥な、なんだよ、そんな羨ましかったのかよ。まぁ当然だけどな!アイツらときたら本当に可愛くて、‥‥」
「なぁ、イギリス」
「あ?」

する、と背後から腹へと回された太い腕が、臍の辺りでやんわりと組まれるのを、イギリスは妙にぼんやりとした気持ちで体感した。抱き寄せられるというほどに強引ではなく、けれど友人では在り得ない距離に、鼓動が早くなるのを感じる。
‥‥まぁ実際、『友人』ではないわけだが。

「それ、その本、」
「え?」

そっと背後から抱き締めてくる恋人が顔をあげて、けれど体勢は変えることなく耳元に囁きかけるように言葉を発するのをイギリスは聞いていたわけだが、その発言が現在手元に持っている本についての言及なのに、少しだけ驚いた。
確かに本の話をしていたわけだが、‥‥こんな、恋人の距離で話す話題では、ないのではないだろうか。
否。恋人の距離、というか。‥‥妙に優しく、柔らかく。まるで、愛しい子どもをだきしめているかのような、柔らかな抱擁で。

「‥‥その本。お前、どこから持って出て、アイツらのところに持ってったの?」
「え?そ、んなの、この屋敷からだって。当たり前だろ、前から持ってた本だし、古いけど、子どもが好きそうな話ばっかだから、」





『なぁ、本読んで』
『ったく、仕方がないなぁ、お前は』




(‥‥あれ?)

瞬間脳裏に閃いた、既視感。‥‥‥‥古い古い、優しい、記憶。

ぴかぴかの革の装丁、きらめく箔押しの題名は鮮やか。
全て手書きの物語集、活版印刷なんてまだまだずっと未来の話だった、遠い昔。
温かなベッドの上、なめらかな歌うような声、夜目にも美しく輝く宝石のような瞳、羊皮紙を繰る白く細い指先、それから。




『まだ読んで、まだ!』
『だぁめ。‥‥ほら、もう寝なさい?俺の可愛い        』




屋敷中に響き渡るドアノッカーが、一瞬のフラッシュバックを呆気なく浚っていった。
続く軽やかな、否、快活すぎてげんなりくる青年の声。‥‥昔はあんなにも可愛かったのになどという感傷さえ萎えさせるような。

「イーギリスー!!早くドア開けないと爆破するぞー!」
「アホかぁ!!つか爆破ってなんだよ爆破って!!」

イギリスは温かな腕を振り解くと、革靴の音も慌しく書斎を後にしようとする。開け放したままだったドアをくぐる直前、どこか呆然とした様子で立ち尽くすフランスへと、キッと視線を遣り、早口で言った。

「フランス!お前もう茶菓子の支度出来てんだろうな?!紅茶はこれから淹れるけど、‥‥ってか固まってねぇで動けっつの!おいフランス、聞いてんのか?!」

妙に間延びした恋人の顔が一瞬こちらに向けられたのを全ての返答代わりにして、イギリスは玄関で待っている兄弟の下へと急いだ。後ろから何事か声が聴こえたけれど、それも返事のうちだろう。今日のティーパーティの菓子を作ると言い出したのは(「やめてええええ可愛い俺のカナダの味覚破壊駄目ゼッタイ!!お前とアメリカはもう手遅れ!!」などと抜かしたフランスに拳を叩き込んだのは言うまでもない)フランスである。
抱き締めてきた身体から漂っていた、甘いお菓子の匂い。‥‥まぁ、大丈夫だろう。イギリスは恋人の腕の温もりによる面映さを、不機嫌そうな眉に転化して、思う。

フランスは、昔から優しい。散々っぱら殴り合いもしたけれど、根本の部分が優しいのだ。
幼い自分が見た、きっと彼は世界で一番美しい存在だった。

「‥‥まぁ今はただのエロ髭だけどなッ」

誰にともなく呟いた台詞は早足の靴音にまぎれさせ、ゴンゴンとノッカーが壊れんばかりの玄関に青筋を立てながら急ぐ。‥‥あの可愛かった天使がこんなKYになるなど、まったく世界は無情だとイギリスは思う。
まぁ、いい。今日は、この本をネタに子ども達をからかいたおしてやろう。

きっと、彼らは覚えていない。手酷く自分を撥ね付けて出て行ったアメリカも、柔らかな物言いでけれどやはり独立を選んだカナダも、きっと。子どもというのはそういうものだ。忘れることで、成長していく。
だが、しかし。

「その子ども時代をネタにからかうのは、兄や親の特権なんだぜ?」

ニヨリと口の端を引き上げて呟いた声は悪どく楽しげ。
さぁ、可愛い俺の子ども達。

「イギリスー!」
「ねぇってば、やめなよアメリカ、迷惑だろ、」
「ああああうるせぇぞッ!ガキどもーッ!!!」




今はもう、ずっと傍には居れないけれど。やっぱりお前達のこと、愛してるんだ。





























「‥‥おいフランス、聞いてんのか?!」

聞き慣れた怒鳴り声に、半ば意識を飛ばしていたフランスは瞬きをして焦点を合わせる。そして半ば反射、けれどどこか慌てた口調で言葉を返した。

「え、あ、う、うんそれは大丈夫もうあとはお兄さん特製フランボワーズのジュレを‥‥って最後まで聴いてってよ!!」

台詞の間に、というか台詞の最初さえも聞かずに部屋を出たイギリスの姿は既になく。ドア向こう、カツカツカツと革靴が早足に廊下を進む音が、かすかにフランスの耳に入るのみで。
‥‥まぁ、いいだろう。せっかちな客、もといアメリカと、その横におっとり立っているのだろう可愛いカナダを待たせていたら、本当にドアを爆破(あの子どもは何を持ってるんだ全く‥‥)されかねないだろうから。

「うん、まぁ‥‥いいけどね」

フランスは、静けさを取り戻した書斎に一人佇み、ぽそりと呟いた。
そして、イギリスが持っていた書籍を、眼裏に思い出す。
あれは古い、古い物語集だ。まだ印刷技術なんてない時代。‥‥あれは、フランス自身が書き留めた、本。
海峡を渡り白壁を越えて出会った幼子を寝かしつける為に、数え切れないほどに読み聞かせた、物語。




『なぁ、本読んで』
『ったく、仕方がないなぁ』




「‥‥そっか、持ってて、くれたんだ‥‥」

ぽそりと、呟く。‥‥こみ上げてくる愛しさに、しゃがみ込む。
あの様子では、きっと覚えていないのだろう。あの本がどうして己の手元にあるのかも、誰が、その本を自分に渡したのかも。
仕方のないことだと、フランスは思う。だって彼はまだ本当に、幼かった。

小さな島は乱れに乱れ、兄達からは迫害されてきた小さな小さな子ども。
甘えることさえ許されず、森の中にたったひとり佇んでいた彼を見出したのは、フランスだ。
もちろん、子分にするつもりではあったのだけれど、‥‥大切にしようと、優しくしようと思ったのは、本当なのだ。
粗末な寝台の中、けれど温かな上掛けに二人くるまって、本を読み聞かせた。幼い子どものために書き留めた騎士や魔法や妖精の世界。小さな柔らかい身体が擦り寄るように己の身体へと凭れかかってくるのが、可愛かった。

『まだ読んで、まだ!』
『だぁめ。‥‥ほら、もう寝なさい?俺の可愛い、          』




「‥‥『俺の可愛い、アルビオン』。」




呟き落とした言葉の甘さに、幼く可愛かった子どもと、現在の凶悪だけれどどこか可愛い恋人の姿が重なる。
それから、笑った。‥‥ああ、美しい森の緑の瞳と太陽のような金髪だけは、変わらない。可愛い、可愛い俺のイングランド、俺のイギリス。

「まぁ、忘れてるなら忘れてるで、いいさ」

子どもとはそういうものだ。忘れることで、成長していく。
結局袂を分かち、名前を変え、1000年単位で殴り合って。‥‥けれどこうして1000年後も一緒にいれるのであれば。




「フランスー!おいコラ、菓子の用意しろっつってんだろ!」
「おおい、早くしてくれないとまたイギリスが食物兵器の作成を始めてしまうんだぞ!」
「フランスさぁん?あの、僕メイプルシロップ持ってきましたからよかったら使ってくださーい」

可愛い可愛い子ども達の呼び声。‥‥可愛く愛しい恋人の、呼び声。

「あああもうお兄さんすぐに行くから待ってなさい!ていうか食物テロ反対!!アメリカ、イギリス押さえつけてろ!!!」

なぁ、一度は手を離してしまったのだけれど。
俺も、北米の子ども達も。みんなみんな、お前のこと、愛してるんだよ?









とりあえず今夜のベッドの中で機嫌を損ねない程度にからかってやろうと、不埒な企みを練りつつ。
フランスは子ども達の美味しいお菓子を用意すべく、優雅な足取りで書斎をあとにした。









  happy days are here again





the end.(2009.10.22)

イギリス大好き。
みんな幸せになればいいよ。