※中盤、カナちゃんに対して性的に無理を強いるシーンを含みます
※年齢制限はかけていませんが、苦手な方は自己回避でお願いします
※歴史的時代背景は掠める程度で、事実とは異なる描写もあります



















※OK?



















澄みきった空を幾条もの雲がカットしている。
青の天蓋を淡く霞ませ駆ける白は速く、その変わり行く姿を完全に追おうとすれば、瞬きさえ許されないだろう。
淡く、濃く、凝集し、連なり、奔る、奔る。青の平原を。
真っ青な、冴えた青。その先に何があるのかさえ知らないまま。









「‥‥嵐がくるね。さ、その前に、おかえり?」

窓外を見上げながら零れ落ちた蕩けるほどに甘く優しい声は、彼女の手首に止まった小さないきものへと向けられたものだ。
軽く肘をたたんで手首を上げ、手の甲を上にして細い二本の肢の支えとしている。手首まで覆った淡い色をしたドレスの布地を小さな爪が食んでいたが、気にした様子もない。
視線は、綺麗に磨かれたガラス越しの空へ。
森の湖水のような青灰をした瞳に、冴えた青の空と奔る雲が映り込んでいる。
窓越しに差し込む陽光を浴びる白く滑らかな頬は微かに少女の幼さを残してふっくらと、しかしほっそりと華奢な白い首筋や柔らかそうな赤い唇、優美でまろやかな曲線で形成された身体のラインは、既に大人の女性のものだ。
足首までをすっぽりと覆うドレスの裾を優雅に捌き、彼女は窓際へと歩いていく。両開きの窓はほんの少し軋み、けれど彼女の指先に抗うことなく、開けられた。サァ、と瑞々しい風がまるでその開放を待っていたかのように部屋の中へと滑り込んでくる。
風はカーテンを巻き上げ、文机に置いていたいくばくかの紙類を揺する。
彼女の背に垂らされた豊かな巻き毛へじゃれつくように遊び、頬を撫で、彼女の華奢な身体を抱き締める。
濃い緑と水の匂いをたっぷりと含んで芳しい、嵐の先触れ。
彼女は小鳩を乗せていないほうの手をそっと桟に掛けると、首を伸ばして外を見た。冴えた青い空、風に走る雲と、それが連れて来るのだろう、西の果てを覆う、低く重い、黒い雲。淡く明滅しているように見えるのは、おそらく雷雲だからだ。ひたりひたりと押し寄せる潮のように、山の稜線へと重い色を落としこんでいる。
風に浚われた巻き毛が、手首に止まりじっと彼女の顔を窺う小鳩へとふりかかった。それを払うようにふるふるっと小さな温かい身体を震わせた仕草に彼女はうっすらと笑って、指先で絡んだ髪を丁寧に払ってやる。
その指で、クルルルと小さく鳴く鳩の羽根の付け根をくすぐるように撫でてから、やはり甘く優しい声音で、語りかけた。

「ああ、ごめんね?風が強くなってきたから‥‥。雷が鳴れば、帰るのは難しくなるよ。‥‥さ、」

促すように手首を持ち上げ窓の外へと向けるが、鳩に飛び立つ様子はない。
クルクルと喉を鳴らしながら、何か、どこか必死に彼女へと小さな瞳を向けている。

「おかえり。‥‥ね?」

再度の促しにも鳩は飛び立たず、彼女の手首にしっとりとした温かみと重みを落とす。
少し灰色がかった白い体は、じっと彼女へと視線を向けて、動かない。
小さな小さな瞳と暫しまっすぐに視線を合わせた後、彼女はどこか困ったように笑う。‥‥否、笑おうとして、けれど出来たのは、柔らかそうな唇を、硬く歪めることだけ、だった。
小さな鳩はクルクルと喉を鳴らしながら、彼女をじっと見つめている。
細い足に括り付けられているのは、伝信用の細長い筒。なんでもない、ただの事務用の品であるのに、小さく小さく精緻な白百合の紋が刻んであるのは、美と芸術を愛する飼い主の感性だろうか。

「ピエール、」

クルクー、とまるで返事をするように鳩は鳴いた。
事実、返事であった。
それは紛れもなく、小さな鳩の名前であったからだ。
小さな鳩につけられた、飼い主からつけられた、たった一つの名前。

幼い彼女の肩に止まらせて、不意の重みにびっくりして泣き出した彼女を抱き上げた、優しい人がつけた名前。




(カナダ、おいで。可愛い子。愛しているよ。‥‥おいで。)




優しいひとの、優しい声。優しかった、手のひら。




ゴゥ、と叩きつけるような風が奔った。
先程よりも強い其れは窓を軋ませ、室内の空気を強く掻き混ぜ、卓上の書類を強くはためかせて中空へと浚う。
まるで見えざる手が空気を掻いたように、気まぐれな其れは気まぐれに軽い紙片を床へと払い落とす。風の、気まぐれだ。決して、何がしかの力が働いたわけではない。

けれど、彼女の、カナダの足元に狙い済ましたように落とされた、白百合の封蝋を捺した書状は、気まぐれというには出来すぎていて、悲しかった。









戦況は日々深刻さを増してきていた。
本国から送られた兵はなるほど世界最高峰ともいえる強さではあるが、如何せん、あちらには地の利がある。なにより長い長い航海を必要とする大西洋行は、海洋技術が発達した今においても難事あることに変わりはない。‥‥その航行、増援を阻む相手も同様に海を越えてくるのだ。
かつて、彼女へと美しい笑顔を向けて会いにきてくれていた頃と、同じように。

焼ける大地の匂い、鉄錆びた血の匂い、硝煙と怨嗟と、絶望。

真っ青な、空の色をした、









「‥‥ッ、はぐ、ぅ‥‥!」

不意に走った激痛にカナダは膝から崩れかけ、けれど咄嗟に手をかけた窓の桟にしがみつく様にして耐えた。手首からピエールが羽ばたいて離れる。バサバサと忙しない羽ばたきも、身体じゅうを吹き荒れる痛みを堪えるカナダの耳には届いていない。

息をする。一つ、二つ。大丈夫、まだ大丈夫だ。震える指先も、目も耳も、まだ、まだ私のもの。

私と、『彼』の。

不意に、柔らかな重みがカナダの肩へと降りてきた。
一瞬肩を震わせたカナダに、けれど小さな重み、温みは離れることなく、そっと彼女に寄り添う。
震える手を、ゆっくりと沿わせれば、温かな羽毛と人間よりずっと速い鼓動が伝わってくる。

「‥‥‥‥ス、さん、」

名前を、呼ぶ。

それはかつて、小さな鳩の重みに驚いて泣きじゃくる彼女を甘く柔らかに抱き上げてくれた人の名か。
それとも、その優しい腕に置いていかれて涙を零す彼女を、震えながら抱き締めてくれた、寂しがりの『彼』の名か。




風が吹いている。
青く澄んでいた空は見る見るうちに暗く、重苦しい色に塗りつぶされ、爽やかな緑の匂いをしていた風には荒々しい風雨の気配が立ち込めている。 遠く鈍く響く雷鳴、果ての世界から響く地鳴りにも似た。

最愛の弟に裏切られた彼の、魂切るような叫びにも似た。

嵐が来る。

「‥‥‥‥ピエール、お帰りなさい、お前の主の下へ。そして、伝えて」

幸せな日々、優しいひとに抱かれて笑った、甘く蕩けるような声は、もう出ない。
絶対の選択を、決別を、決断を下す声は、吹き荒ぶ嵐のよう。
知らず蹲っていた、ドレスの裾に白百合の書状が触れる。震える指先で、其れを、









「私は、」









「おい」
「きゃぁ!」

驚いた拍子に、カナダの手元で鉄製の炭桶が跳ねた。ピン、と火の入った炭が弾ける音と同時、空気に触れて瞬いた橙の火が微かな残像を描いたが、けれど其れはすぐに背後から伸ばされた強い腕によって彼女の腕と言わず身体ごと固定されて、大人しく桶の中に留まることが出来た。
カナダは一瞬身体を強張らせた後、ほぅ、と一つ息をつく。‥‥火種を足元に落とせば大変な事になるところだった。
そして、そんな彼女に一呼吸ぶん遅れて、はあぁ、とため息。

「お前なぁ‥‥」
「う、ご、ごめんなさい‥‥」

がっちりと抱き締められた腕の中そろそろと仰のくように振り向けば、呆れた色を乗せた森色の瞳と目があった。イギリスさん、と呼びかけというよりも独り言めいた声でその名を口にすれば、きゅ、と彼女の腰を抱く腕が少しだけ強くなる。
少し幼い顔立ちながら、豪奢な金髪とその下にある意思の強そうな眉とも相俟って、不思議なほどに存在感が強い。
そのわりにカナダは彼が背後に来るまで気がつかなかったわけだが、けれどそれは自分たちの繋がりを思えば仕方がないといえなくもない。‥‥『兄』たる彼から分けられた『イギリス』を身に宿している以上、ある意味自身の気配を自分で悟れと言われているようなものだ。

「ったく、ぼんやりしてるなよ、俺が帰ってみたら屋敷が全焼とか笑えねぇぞ」
「うう‥‥」
「‥‥まぁ、お前がおっとりなのは今に始まったことじゃねぇか」

そこまで言って、ふわりと緩んだ森色の瞳に、カナダもまた身体から力を抜き、そっと凭れかかった。

「い、いつもはちゃんと注意してるもん」
「本当かぁ?」
「本当!もう!イギリスさんの意地悪!」
「ああ、わかったわかった」

鷹揚な大人の笑いで往なすイギリスにカナダは甘えたように唇を尖らせながら、今度こそ慎重に、火種を入れた鉄製の桶を専用の卓の上へと置いた。其れを見届けるようについて来ていた兄の腕が離れるのに、一瞬心許ない何かを感じたが其れは心の内側に仕舞い込んでから、一歩だけ踏み出してその腕から離れると、ゆっくりと振り返り、ドレスの裾を摘まみ軽く膝を折って優雅に挨拶をした。

「お帰りなさいませ、イギリスさん」
「ん。」

ごく自然に取られた手に逆らうことなく、手の甲にくちづけを受ける。
そろりと上げた視線に優しく礼儀正しい紳士の視線で笑み返され、カナダの頬がほんのりと染まった。

「なんだ、暖炉に火を入れるのか?」
「あ、はい。‥‥嵐になって、少し気温が下がったから。イギリスさん、寒いでしょう?」
「あー‥‥まぁな、」

カナダの傍から離れたイギリスがソファへとゆっくりした動作で掛けるのを視界の端に捉えながら、カナダは手早く暖炉の内へと炭と薪を足していく。
きっちりと締め切った窓を叩き、戸外を荒れ狂っている嵐のせいで空気が湿気ているためか、新しい薪には火が移り難い。しっかりと焼かれた炭と一緒に細い小枝、そしていくらかの紙を挟みこむようにして、薪を組む。そこに、先ほどの炭桶から淡い橙にまたたく火種となる炭を、そっとおいた。
くしゃくしゃにされた白い紙に瞬く間に火は燃え移り、勢い良く燃え始めた火は小枝を炭を火に包み込んで、やがて安定した。
カナダはそこまでをじっと見届けると、ゆっくりと立ち上がり、灰避けの前掛けを外してドレスの裾を整えてから、兄の座るソファへと足先を向けた。
その瞬間、窓が高い音を立てて揺れる。
その音にカナダの肩がビクンと跳ねたが、ソファに腰掛けて瞑目していたイギリスは気がつかなかったのか、室内にはただ静かに、薪の弾ける音だけが響いていた。
カナダはすっかりと暗く塗り込められた窓の外を暫し見つめてから、今度こそ兄の傍へと向かう。

「嵐に、なりましたね」
「ああ。‥‥ここに」
「はい」

目を閉じたまま言葉少なに応じる兄の声に従って、そっとその隣りに寄り添うようにカナダは腰を下ろす。触れた肩から柔らかなひとの温みを感じた、その直後には、力強い男の腕の中に抱きすくめられ、荒々しいくちづけを受けていた。

「ん‥‥ッ、ぁ、」

息をつく間もないほど深いキスを、カナダは必死で追う。
圧し掛かる男の身体も、身体をまさぐり脚を割り開いてくる手のひらにも逆らわない。
ただひたすらに、受け入れ、彼を、感じる。

「イギリスさん、イギリス、さ、」
「黙れ」
「‥‥‥‥ッ、ぅ」

誰とも違う、声で呼ばれる。‥‥呼ばれない、名前に泣きそうになる。




彼が呼んでいた名前は、二つあった。
優しい日々、それはままごとめいた、淡く朧な日々であったかもしれないけれど、確かにそこに、あった。
初めて知った美しく温かなフランスの腕を取り上げられて泣いていた自分へ、困ったように恐る恐る伸ばされたイギリスの指先に、震えながらも己の手を預けた瞬間から。
彼と、自分と、真っ青な空のような瞳をした「きょうだい」と。
ずっと一緒にいるのだと思っていた。
彼に名を呼ばれ、イギリスに愛されながら、過ごしていくのだと信じていた。




戦場に翻る独立旗、真っ青な空の色を思う。
唯一無二の、兄弟の、初めて抱き上げてくれた、優しいひとの色を、思う。

呼ばれなくなった名前と、初めて、無理やりに犯された日の、絶望に暗く沈んだ森の色を、想う。




「お前は、俺のものだ」
「んぁ、あ、アンッ、イギ、リ‥‥っ!」
「お前を、‥‥手離してなど、やるものかッ、‥‥リ、カッ!」









零れる涙は透明で、まるで痛みそのもののように、とめどなく。









彼女を抱き締めたまま気絶するように眠りに落ちたイギリスの腕の中、男の意識が完全に落ちたのを見計らい、カナダはそっと身体を起こす。
長時間、一方的に苛まれた身体は重く、男の精に濡れた体内の深くは痺れてじくじくと疼いたが、それでもカナダはゆっくりと、イギリスを起こさぬように、己を組み敷く身体の下から、抜け出た。
愛しい呼び声も言葉も、愛撫すらない。初めての日から、ずっと。
普段は優しい兄たるイギリスがカナダを抱くのは、身体の内側を焼く激情から、心の芯まで冷やす嵐から、ただひたすら逃れる為だけだ。そして彼女が、『北アメリカ』が己のものであると、英領であると確かめる為。そのためだけに伸ばされる腕を、与えられる痛みを、けれどカナダは拒まずに受け止める。
イギリスが横たわるソファの端、背を預けて座りなおし、気だるく霞んだ意識のまま、ぼんやりと辺りを見渡す。
灯を点していない室内は薄暗く、窓の外は相変わらずの嵐だ。
視線を返せば、すっかりと火を落とした暖炉に、僅かな熾火がチロチロと燃えていた。
カナダはゆっくりと立ち上がると、乱された服はそのまま、暖炉へと歩み寄る。

彼女が組んだ薪はすっかりと黒く焼かれ、その下には小枝や紙を燃した灰が堆く積もっている。その灰の中、白い欠片を見つけた。
あれほどに燃えていた炎をどう避けたのか、白い紙片は端を焦がされ、変色しつつそれでも僅かな原形を保って、灰に埋もれている。
カナダは其れを、迷わずつかみ出した。まだ熱い灰が白い指先を焼いたが、彼女は眉一つ動かさない。

白い、紙片。晴れた青空から舞い降りてきた翼を持つ使いがくれた、優しい言葉。
初めて教わった海の向こうの言葉、歌うように美しい言語で書かれた、優しい、愛の言葉。




(カナダ。可愛い子。愛しているよ、俺の元へ、帰って、おいで。)




優しいひとの、優しい声。優しかった、てのひら。優しく、熱く愛してくれる、青い、眼差し。




「‥‥要らない」

カナダは、呟く。

「要らないの、もう」

呟きながら、淡い熱の光を帯びていた炭に、白い紙片を押し付ける。
それは瞬く間に燃え上がり燃え尽きて、灰の中へと消えていく。
外は嵐。窓に叩きつける風雨は激しく、愛しい愛しい『弟』との雨の撤退戦を闘ってきた兄の身体は、冷たかった。
荒々しく貫かれ、ただひたすらに彼の『もの』として抱かれながら、暗い、暗い窓の外を見ていた。
重く立ち込める黒い雲、吹き荒れる風と凍えるほどに冷たい雨。その向こうに、美しい真っ青な空が広がっていると、知っている。

晴れ渡る夏の空の、アメリカの瞳のような。
美しく潤む春の朝の、フランスの瞳のような。

「要らない」

そんなもの要らない。もう自分には、必要ない。欲しいのはただひとつ。

「イギリスさん」









黒い絶望と孤独の嵐を抱えて泣き狂う、このひとだけ。









「‥‥あのひとに、伝えて、ピエール、」

外は、嵐。
愛した相手の向ける銃口に怒り狂い、心を壊すほどに泣いて眠るイギリスに、カナダはそっと寄り添う。
冷たく青ざめた頬へと、誓いのように、くちづける。

「私は、英領、カナダ。私が居るべきは、このひとの、傍」









嵐のように慟哭するこのひとに、寄り添って雨にうたれる。









(このひとを、愛しているの。)









 テンペスト





end.(2009.09.19)

リクエスト『独立戦争時のイギとにょカナちゃん』

簡略化すれば、仏→カナ→英なんですが‥‥メリカがあんまり出てこないのは仕様です
イギの態度が首尾一貫しないのは、裏切りに荒んでおかしくなってるから
このカナちゃんは女の子なんで、さすがにメリカと混同して は(ギリギリ)ないんだけど、ちょっと、まぁおかしくなってるってことで
カナちゃんはイギに拾われたときから一目惚れで何されてもいいって思っているのです
リクエストありがとうございました。