イギリスは、アルコールが好きだ。
世間では、やれすぐに脱ぎだすだの戦闘服(not軍服)で突っ走るだの翌日に泣いてうざったいだのと散々な言われ様の我が酒癖だが、それでもやはり酒を飲むのは止められない。
単純に、美味しいからというのが第一の理由だ。
スコッチも好きだしアイリッシュもいい。ジンジャーワインも美味い。温暖化の影響でワイン用の葡萄に適した気温の地域も国内に現れ、環境的には宜しくないのだが国民の味覚的には大変魅力ある葡萄畑まで作られるようになった。
そうとも、酒は美味い。
自分の酒癖の悪さは、主に飲酒過多からくるものなのだ。服を脱ぐのも誰かに絡むのもうっかり朝起きたら誰かのベッドの上なのも、全ては量のせい。なので、つまりはそれさえほどほどに済ませれば、美味しい酒を味わって、上機嫌なままに翌朝の仕事に備えてベッドに飛び込み、眠りに落ちることだって出来るはずで‥‥
「イギリスさんっ、聞いてますか?!」
「あーはいはい、聞いてる聞いてる」
タンッ!と鋭い音が卓上に響く。ミントンのハドンホール、オールドファッションドグラス。‥‥まさか割れはしないだろう、うん。
目の前で展開される、気に入りのグラスへの厳しい取り扱いもとりあえず不問にして、イギリスは片手に持ったワイングラスを傾けた。ウェッジウッドのバーガンディ。隣国で購入してきた赤が綺麗に映える。
「だいたいアメリカ、普段あんなに人にあーだこーだ指図するくせに、最後の最後で引くってどういう了見ですかッ?!ひとりでバーにはいっちゃ駄目だとかそのスカート短すぎるんじゃないかい?とかッ、キミはぼんやりしてるから心配だとかッ。それならついてくればいいじゃないですかー!!」
「だよなぁ‥‥」
ああ、女性の声はいついかなるときも音楽のようなものだとか言っていたのは誰だったか。言いそうなのは海峡向こうの腐れ縁あたりかな。だよな、確かいつだったか平手打ちつきでフラれていた時だって「女性から下される審判はいついかなるときも神聖さ‥‥!」とかワケのわからないことを言っていたしな(当然ウザすぎて殴って沈めた)。
まぁ、イギリスとてそれが解らなくもない。女の声というのは男の耳にはいつだって甘く、綺麗に響くように出来ている。
況してやそれが、見目麗しい若い娘で、自分に懐いていて、しかも自分が大事に大事に手元においてきた相手であれば。
「ああほら、カナダ、飲むか?グラス空いてる」
「飲みます!もう、飲まないとやってられませんよぅこんなの‥‥ッ」
ポコポコ怒っていたかと思えば、途端に零れるほどに大きな湖水色の瞳に涙を溜めてうつむく。それをイギリスは曖昧な声で宥めながら、ぞんざいに置かれたグラスに酒を注いだ。スコッチのストレートアップ。‥‥さっきからチェイサーを口にしているように見えないんだが。
「アメリカのばかぁ‥‥。もう、どうしろっていうのー‥‥」
‥‥普段の自分の酒癖の悪さを若干反省する。たしかにこれは、悪癖だ。
イギリスは目の前で荒れに荒れる、可愛い可愛いカナダの姿に、ワインと一緒にため息を飲み込んだ。
誰かと飲む酒は、それだけで美味いものである。
それが自分と同じくらいに飲めて、且つ話も合えば素敵な話だ。ついでに目にも嬉しい容姿の相手であれば、もう言うことはない。大きなおっぱいもくびれた腰も、まぁ手を出す出さないは別にしても見ていて楽しさを感じこそすれ、不快に思う要素は何一つない。
普段であれば。
「イギリスさぁんッ!!」
少し潤んだ可愛い声と柔らかな肢体を、イギリスはドアが開けられるとほぼ同時に抱きとめた。
それは休日の午後遅く。イギリス邸に文字どおりに飛び込んできたカナダの、哀しさに潤みそれでいて抑えきれない怒りを宿した青灰色の目に、イギリスはとりあえずの宥めるキスを頬に落として華奢な肩を抱いてリビングへと案内したものだ。
「‥‥で?今度はアイツ、何やったんだ」
「アメリカのバカァ!!もう知らない!!」
ぎゅうぎゅうと兄の身体に抱きついて喚くカナダに、イギリスはため息をつきつつその頭を撫でる。抱きつかれるのは、別に良いのだ。柔らかい身体はあたたかくて、なにより彼女は抱き心地が抜群に良い。
ふにふにと身体に当たるおっぱいの感触に、イギリスは立派に育ったなぁと純粋な養育者としての感慨なのかはたまた単なるオッサン思考なのか微妙なラインの其れを脳内展開しつつも、はいはいと相槌を打って彼女の為の酒肴を何にすべきかと考えた。
まあ、いつものことなのだ。
可愛い可愛い彼女が、煮え切らない「兄弟」の態度に怒ってイギリスに泣きついてくるのは。
カナダは、アメリカのことが好きだった。
それはもう、ずいぶんと昔から。
それをイギリスが知ったのは、アメリカが独立して荒れまくっていた自分に邪険にされつつも懸命に支えてくれたカナダへ、それなりの時間が経ってから冷静に応対できるようになった頃、だ。
うつむいて身体を震わせながら、アメリカが好きなんです、と言ったカナダは、とても可愛かった。恋をすると人は綺麗になるというが、そもそもの造作がいい(俺の影響はともかく、あの無駄にきらきらしいフランスの影響は抜群だ!)カナダは、あの頃を境に驚くほどに美しくなったのだ。
その頃にはイギリスも、多少の鬱屈を残しつつもアメリカを「アメリカ合衆国」として認められるようになっていたから、そうか、と頷いてその頭を撫でてやったものだ。彼女は、大切な身内だったから。
以来、大小さまざまな危機や戦争、苦難を乗り越えて現在に至るまで、彼女の想いは大切にはぐくまれてきた。
勿論、其れを見守るイギリスも、彼女の幸せを願っている。
‥‥そして、あの少々破天荒ではた迷惑な、元弟の、恋も。
アメリカがカナダを好きなのは一目瞭然だった。
もう見ていて笑いを通り越し哀れに思えるくらいに、彼はカナダのことを一途に想っていた。
が。
「もうっ、アメリカのばかぁ!煮え切らなすぎだよ!」
「あー‥‥なぁ‥‥」
‥‥若干、一途に過ぎた。
最初は、時期を計っているのかと思った。いや、実際そうなのだろう。アメリカはあれでいて意外に慎重だ。
例えば、外交関係に響かない時期がいいだとか、あるいはカナダの機嫌がいい時であるとか‥‥ロマンチックな高層ビルにあるレストランを予約してからだとかスウィートルームを取りたいだとかハネムーンはどこにだとか‥‥、しまった、話が微妙にずれた。
ともかく、あの弟はカナダをこれでもかと大切に扱いたいらしい。
もっともなことだ。イギリスは思う。というか、そうでなければカナダを任せる気にはなれない。大切に扱え呪われたくなければ。
とはいえ、だ。
5年経ち、10年経ち。‥‥50年を過ぎた辺りで、イギリスもユルい笑みが上るようになってきた。
「‥‥アイツ、本当に大丈夫なのか?ちゃんと勃つのかよ」
「あ、それは大丈夫ですだってアメリカのベッドの下、おっぱいおっきな女の人いっぱいのグラビア誌がたくさんあるし。箱ティッシュも。」
「‥‥‥‥‥‥それはそれで大丈夫と言うのもどうかと‥‥、ってかカナダ、ベッドの下探るのやめてやれな?さすがに可哀相だから」
「知りません。だってアメリカ『俺の家は自由に使ってくれて構わないぞ!』っていったもん。お掃除しててちょっと見つけちゃっただけですー」
「あー‥‥」
可愛い仕草でスコッチを呷りつつ、カナダは酔いが回っているわりにしっかりとした口調で話し続ける。
少し赤らんだ顔や潤んだ瞳に彼女がしたたかに酔っていることは解っている。が、そもそもアルコールに耐性のある彼女は少々感情の起伏が激しくなる程度で、イギリスほどには乱れた悪癖がないのが幸いだ。‥‥幸いか?
「ばかばかばかッ、せっかく肩に身体寄せて眠ってるふりまでしてあげたのに、何も無いってどういうこと?!そのくせ私のおっぱいとかおっぱいとかおっぱいとか凝視するくせにー!!!」
「‥‥‥‥わかった、わかったからカナダ、おっぱい連呼するの止めろ。な?」
「アメリカのばかぁ‥‥」
そう言うなりまたしてもグスグスと鼻を啜り始めたカナダを前に、イギリスはため息をつきつつワインを干した。
キリリと締まった濃厚な赤を、酔い過ぎないように少しずつ味わう。
すでに目の前の人物が酔っ払ってしまっているのだ、自分が潰れたら目も当てられない。‥‥それに、彼女は酔いたくてイギリスの元にやってくるのだ。
酔って、愚痴って怒って泣いて‥‥元保護者に甘えて。
一頻り暴れて、すっきりして。それからまた、あの少し臆病な青年に、恋しつづける。
(若いヤツらなんて、どいつもこいつも迷惑で、可愛いものさ)
「ほーら。カナダ、こっちこい」
「うう‥‥」
コトン、と綺麗にその中身を胃に収めたワイングラスを卓上に戻し、向かいに座ってベショベショと泣いているカナダを手招く。
可愛い可愛い酔っ払いは、その手招きに応じてテーブル横を迂回してからイギリスの隣へとやって来て。
「イギリスさぁん‥‥アメリカが酷いよぅ‥‥」
「本当にな。バカだよなぁアイツ」
ぎゅっと抱きついてくる身体をそのまま横抱きにして、膝に乗せる。
柔らかな身体は抱き心地がよく、すんなりと伸びた四肢もぷるんと張ったおっぱいも、なんとも楽しい感触だ。
「アメリカのばか、グラビアのおっぱい眺めてるくらいなら私のおっぱい触ればいいじゃないっ、おっぱいくらい揉ませてあげるもん」
「‥‥‥‥。わかったわかった、おっぱいなら俺が揉んでやるから」
「違いますーイギリスさんじゃなくてアメリカがいいの!」
「はいはい、じゃあアメリカが揉んで気持ちがイイっつーようにおっきくしてやるから」
「ふぇ?揉んだらおっぱいっておっきくなるんですか?」
「揉み方次第ではな」
目の前の、大きくするまでもないたっぷりぷるぷるな胸を柔らかく揉みながら、手つきと体勢とは裏腹な暢気な声で会話を続けた。
「ん、んん‥‥イギリスさぁん‥‥」
「あー、はやくアメリカが揉んでくれるといいな」
「アメリカのばかぁ‥‥」
「もう寝るか?」
「寝るぅ‥‥イギリスさん、寝よ‥‥」
「ん。じゃ、寝室行くか」
甘い声での会話は聴きようによっては大変にそれらしい雰囲気のものなのだが。
イギリスの上体に抱きついて身体を密着させてくるカナダを、イギリスは軽々と横抱きに抱き上げ、立ち上がった。
先ほどまで揉んでいた胸がぷるりと揺れ、抱き上げた拍子に腿の中ほどまで裾がめくれてしまったスカートから伸びる脚はまぶしいほどに白く瑞々しい。‥‥カナダの言動からすれば、今ほどの状況まではいかないもののそれなりに好意と同時に行動で示しているように感じるのだが‥‥それで我慢が出来るアメリカの気が知れない。
「落ちるぞ、首掴まってろよ」
「んんー‥‥」
眠そうに唸りながらもイギリスの言葉に従ってするりと伸ばされた腕を、少し自身の首の位置を調整してかけやすいようにする。その気もなくそろりと指先で触れられたうなじに、なんとも微妙な気分になったものだが、イギリスは歩調を変えるでもなく柔らかな身体を抱いて主寝室へと向かった。
「ほら、着いたぞ」
「うん‥‥」
使い慣れた自室なればこそ、明かりなしでも部屋の奥に据えたベッドへと辿り着き、柔らかな身体を寝台の端へとそっと降ろす。
既に半分以上眠っているのか、力の抜けきった様子に苦笑しつつ、イギリスはコンフォーターを剥いでからもう一度カナダを軽く抱き上げ、ベッドの中へと入れた。
シーツの感触につられたのか、モソモソと動いてカナダが枕に頭を埋めた。まるで子どもの仕草で可愛いものだ。
「そのまま寝るなら前のボタンくらいはずしとけよ」
「んん‥‥脱げます、から‥‥」
「そうか」
衣擦れのたつベッドを背後に、イギリスもあくびをつきながら服を解いていった。ネクタイ、ベスト、スラックスにシャツ。トラッドな服装はアメリカ辺りに言わせたら古臭く堅苦しいといわれるばかりだが、イギリスにはこのスタイルがもっとも落ち着くのだから仕方がない。
クロゼットへと歩きながら服を脱ぎ、アンダーウェアも全て取り替えてからパジャマは着ずに暗いままの室内を再び横切り、ベッドへと戻る。
そこでは人ひとりぶん、こんもりと盛り上がったシーツの裾からハニーカラーの巻き毛が零れていた。寝台脇の床には、彼女が着ていたワンピースと、下着。
‥‥‥‥今この場に居るのがアメリカならば、感無量な光景なんじゃないだろうか。
「あいにく、俺だけどな」
己の思考にセルフで応じ、イギリスはふわぁとひとつあくびをしてからベッドの端からシーツを持ち上げた。アルコールの香りと仄かに甘い、自分以外の匂いがふんわりと香りたつ。
「カナダ、ほら」
「んー‥‥」
伸ばした腕に寄せられたのは、柔らかい素肌だ。
もそもそと寄ってきた身体を軽く抱き込んで、熱を貰う。
闇に慣れてきた目に映るのは、夜闇になお眩しい柔らかで甘そうな裸体。ぷるんと張った胸の先端が、イギリスの脇腹に触れてくる。
‥‥これが、彼女でなければこの後の展開なんて、たったひとつなのだが。
「ほら、ちゃんとシーツかぶれよ、風邪引くぞ」
「暑い‥‥」
「飲み過ぎだ。まったく‥‥」
言って、イギリスは剥き出しの肩にシーツをまきつける様にして掛けてやった。自分ごとシーツに包みこみ、密着度を増す。あたたかな身体が、心地よい。‥‥愛しくて、可愛いカナダ。
大切な大切な、俺の子ども。
「アメリカもなぁ、とっとと降参すりゃいいのに」
「あめりかのばかぁ‥‥」
「舌が回ってねーぞ」
首の下に腕を入れ、丸い頭をそっと肩口に預けさせるようにおけば、すりすりとカナダが擦り寄ってくる。
甘い匂いと、柔らかな寝息が少しだけくすぐったくて少しだけ笑えば、それに意識をほんの少しだけクリアにしたのか、重たげに上げられた瞼の置くから、灰青色の瞳がイギリスを見あげてきた。
それには優しい保護者の笑みを添えて、額におやすみのキスを返す。
「もう寝ろよ。そんで、明日は朝食食ったら、ちゃんと帰れ」
「はぁい‥‥」
「アメリカ、待ってんだろう?」
「‥‥知らないもん」
「でも、好きなんだよな?」
「‥‥好き。」
蕩けるほどに甘い声で応えた可愛いカナダに、イギリスはそうかと声を返しながら、その頭をゆるゆると撫でて彼女を眠りへと落とす。
イギリスもまたほどほどに身体に入れた酒が、程よい具合の眠気を運んできていた。そう、酒の量はこれくらいが良い。‥‥カナダも明日は、きちんと諭さなければ。
今頃アメリカは、海を渡った恋しい彼女の行方にやきもきしている頃だろうか。
イギリスやフランスが彼女のそばに居る時のアメリカの目ときたら、それはそれは鋭いものだ。もっとも二人とも、それに怯えるほど若くも弱くもない。むしろ、微笑ましい気分にすらかられる。
‥‥鋭い、男の目つき。だったらさっさとものにしろと、半ば呆れ気味に思いもするが。
(そういう臆病さが、アイツのいいところなのかもな)
ふ、と結論した思考にひとつ息を吐けば、本格的に寝入ったカナダが身じろいで、ふにふにと柔らかなおっぱいや太腿が、イギリスの身体へと単純に素敵な感触をもたらした。
‥‥そのうち、この感触は一切合財奪われる。それがいつになるのやら、イギリスには解らないのだが。
(頑張れ、アメリカ。カナダもな)
シンプルなエールを、すぐ傍に眠る彼女と海の向こうで悶々としているだろう、彼に。
そっと心の中で呟いた言葉は、適度なアルコールとともにイギリスの眠りに落ちる意識の最後の一押しとなって、後は寝室に静かな寝息が二つ、満ちるばかりだった。
因みに、そう遠くない未来において、若い海向こうの彼らは無事に互いが『恋人』という立場を手に入れたのだが。
「‥‥‥‥‥‥‥‥なぁイギリス。きみ、カナダのおっぱいを揉んで大きくしてあげたって、本当かい?」
久しぶりに一緒に飲みつつ、背後に何か黒い空気を渦巻かせてイギリスを問い詰めてきたアメリカに、何と返していいものやら迷うことになるのは、これもまたそう遠くない未来の、平和な光景である。
(ああ、涙目のコイツは本当に可愛い!)
Estuans Interius
the end.(2009.03.21)
お兄様も大変だよねという話。おっぱいは揉んでるけどね!(´∀`)
「‥‥でさぁ、イギリス」
「んだよ」
「‥‥‥‥お、おっぱいって揉んだら大きくなるものなのかい?」
「‥‥揉み方によってはな。」
同じ事を訊く北米きょうだい(笑)