※後半に少しだけイギとカナちゃんがフィジカル的に仲良くしているシーンがあります
※年齢制限はかけていませんが、苦手な方は自己回避でお願いします
※ファンタジーですよ、ファンタジー。くれぐれも、ね!(笑)
※OK?
好奇心に殺されるのは猫と相場が決まっているが、若者だって似たようなものだとイギリスは思う。本人らはきちんと考えて行動していると主張するのだが、実際にアクシデントに巻き込まれれば、酷く弱い。またアクシデントは突発的に降りかかるものとは限らず、ひたりひたりと足元から絡め取って抜け出せぬまま深みに嵌まるものもある。
「つまりはこれ、そういうことだよなぁ。若い頃に嵌まっちまって抜けらんなくてっていう」
「まったくですねぇ。もうお互いに若くもなし」
「ついでに抜ける気もなし」
「あはは、上手いことをおっしゃる」
友人の軽やかで上品な声は、その息を白くくもらせ声帯を焼く煙を積極的に摂取しているにもかかわらず、ひどく心地よい滑らかさを保っている。それを東洋の神秘と片づけるのは陳腐な気もしたが、極上のシルクのような黒髪や感情の淡い黒瞳を見ていると、やっぱりこの友人は不思議と神秘の塊だと、イギリスはこっそりと思っていた。
指先で軽く紙巻をノックし、白く凝った灰を落とせば温かみのあるオレンジの明かりが緩やかに紫煙を立ち昇らせる。抜群の性能をもつらしき空調設備がそれを一群に揃えたまま残らず引き寄せ飲み込んでいった。奇妙な静謐ささえ感じる其れは、精神に負担のかかる会議後の一服に相応しい清涼感を持っている気がしたものだ。
ほんの数分の立ち話ではあるが、厄介な会議後の友人との語らいは、深みに嵌まった嗜好品片手に至極和やかな気分にさせてくれる、心地好いひとときだ。
「本当に、若いうちに止められていればよかったのですけど。もう今となっては、ねぇ。ま、煙草なんぞ覚えないに越したことはないですね。アメリカさんはその点かなり賢いと思いますよ」
「ああ、アイツ煙草大嫌いなんだよなぁ」
「イギリスさんの教育の賜物ですか?」
「なんだよ、反面教師って?それはそれでなんかムカつくな‥‥」
ふぅ、と白い煙を吐きながら、かつて弟と愛しぬいたアメリカの快活な笑顔を思い出す。
喫煙シーンを見られたときは真剣に怒られたり煙草を取り上げられたりとなかなかに小うるさい元弟に、いっそ嫌味なほどにニコチン知らずの白い歯は、確かに彼に良く似合っている。煙草は若い彼の好奇心に触れるものではなかったのだろう。日本の言のとおり、賢い選択だ。
と、そこで日本が何かを思い出したように瞬いて、薄く笑った。
「どうした?」
「いえ‥‥そう、カナダさんがね」
「カナダ?」
友人の口から出てきた名前に、思わず鸚鵡返しに言葉を繰り返してしまい、内心で妙に面映い気分になる。決して顔には出していないつもりだが‥‥この見た目は年下、中身はすごく年上の友人には、お見通しなのかもしれない。彼女との、関係も含めて。
カナダはアメリカと同様、イギリスの妹である。
派手なケンカを繰り広げてこのうえもなく豪快に別れた弟とは違い、彼女は現在進行形で妹と言ってもよいだろう。合意の上で主権を渡し独立させたものの、現代におけるまで英連邦として、いわば身内の枠内にある相手だ。
そして同時に彼女は、イギリスの大切な大切な、たったひとりの恋人だ。
身内に手を出す、というのは人であれば決して褒められたことではないのだろうが、自分たちは人のなりをしているものの、厳密には人ではない。この辺りの禁忌については、今は関係もないしそもそも合意の上での関係なので、置いておくとして。
そんなわけで『身内』という強い看板がある以上、友人の口から不意に零れた恋人の名前にイギリスが多少強めに反応したところで、おかしくもないだろう。
「‥‥アイツが、どうかしたか?なにかしたなら、俺からも謝るけど」
「いえ、いえ。そのようなことではありませんよ。少し楽しく、お話させていただきましたというだけで」
「へ?‥‥それ、今日か?」
イギリスはぱちぱちと金色の睫をしばたたかせて訊いたものだ。
カナダは、恋人で兄のイギリスが言うのも微妙な話だが、非常に影が薄い。
デフォルトおっとり、オールウェイズのんびり、会話に加わろうとほわほわ台詞を考えている間に眠ってしまったりするほどの、超がつくのんびり屋だ。そのせいか、それなりに国際舞台でも(そう、この会議でも!)成果を上げているはずなのだが、どうにも、薄い。うっかり脳内をビジネスモードにスイッチしていたら、イギリスも見逃してしまいそうな勢いだ。
そんな彼女と、この友人が楽しく会話。‥‥いつの間に。
「休憩時間ですよ。ほら、ヒゲとスットコ‥‥失礼、フランスさんとアメリカさんが、漬物の‥‥なんですっけ、ピクルス?の、味つけがどうのと言い合いをしていた、」
「ああ、‥‥そういえば、お前らいなかったっけ」
静かに頷いた日本に、些かげんなりとした表情でイギリスは言葉を返したものだ。それは決して、日本に対してのものではなく。
「アイツらよくもまぁ、あれだけくだらないことで真剣に対立できるよ。だいたいピクルスなんざどれも一緒の味じゃねぇのか?」
「はぁ‥‥まぁ、いろいろあるのでしょう」
苦笑気味の日本がぷかりと吐いた白い煙に、イギリスも重ねるように白い吐息をついた。‥‥あまりにくだらな過ぎて思い出したくもない。するすると煙を絡めとっていく高性能の空調がこの記憶もクリーニングしてくれたいいのに。
「少し離れたロビーで一服していたところに、カナダさんがいらしたんですよ」
「へぇ」
「なんといいますか‥‥可愛らしい方ですねぇ」
「‥‥日本?」
クスクスと笑う友人に、イギリスは訝しげな声で名を呼ぶ。
己の恋人を可愛い、と言われて返す言葉は、「ありがとう」か「俺のだから手を出すな」かのどちらかだとイギリスは思う。これが例えばフランスであれば、即座に頚動脈をギッチギチに押さえつつ(「痛い痛い!ちょ、やめてお兄さんの脳みそ酸欠になっちゃう!エリゼ宮停電しちゃうからぁ!」)後者の台詞を選択なわけだが、日本の場合はそれはない、と思う。
事実、今の彼の言葉も、綺麗な異性を褒めるというより、まるで暖かなテラスのロッキングチェアに腰掛けた好々爺が、隣家に住まう孫娘くらいの年頃のお嬢さんのことを話しているようでさえあった。‥‥まぁ実際それくらいには(外見はともかく)離れているのだけれど。
と、なんとなし埒も無いことを考えていたイギリスに、日本は煙草をふかしながら彼らしい上品な‥‥それでいて、どこか悪戯めいた笑みを刷いて、イギリスを見た。
「私が喫煙する姿をいやにじっと眺めてくださるので、理由をお聞きしたら周りに煙草を吸う方がいないからだとお応えくだすったんですが。‥‥ええ、勿論私、彼女の大変煙草を吸われる恋人様を、ご存知なわけですけれどね?」
「‥‥日本、あのな」
「自分の傍で喫煙しないのは自分のことをこども扱いしてるから、と随分可愛く拗ねていらっしゃいましたよ。はは、可愛らしい話じゃないですか。ですので、ちょっとしたフォローをしておきました」
「は?!‥‥ッケフ、っ」
余りにも楽しげに告げられた言葉に、イギリスは思わず、むせた。‥‥煙草の煙でむせるなど、何十年ぶりのことだろうか。
しかし今は、それどころではなく。
「ちょ、に、日本、お前アイツに何を‥‥っ」
「いえ、たいしたことは言っていませんよ?ただ、あなたの恋人は決してあなたを子ども扱いしているわけではない、という内容のことを言っただけです」
「‥‥本当に、それだけか?」
「勿論」
即答過ぎる即答は、物柔らかな年長者の笑みで。
普段はアメリカの陰で四角四面の答弁に終始する彼の本領を垣間見た気がして、イギリスはなんとなし居心地の悪い気分になった。‥‥そういえば、この姿だけは小さな友人は昔から凄く没個性でおとなしやかに見えて、その実妙に押しが強く変なところで思いきりが良い、不思議な相手だった。
ふ、と白い息が空調に吸い込まれていく。さすが煙草嫌いの議長国の議場というべきか、喫煙ルームのシンプル(というかおざなりすぎる内装というか)なことと空気清浄設備の性能の良いことといったらない。
スルリと見えざる手に掻き抱かれるように吸気孔へと導かれた煙をきりに、イギリスは煙草を添え付けの灰皿へとねじ込んだ。シンプルな宿り木から腰をあげ、ゆっくりと紫煙をくゆらせる年上の友人を見る。
「今日はもう、帰る」
「はい、お疲れ様でした。明日も引き続きよろしくお願いいたしますね」
「ああ。‥‥とりあえずピクルス以外の議題でな」
「ふふ、そうですね。‥‥ああ、イギリスさん?」
綺麗に磨かれたガラスのドアの引き手へと指先をかけたイギリスの後姿に、上品で滑らかな友人の声がかけられた。
「休憩したロビーも此処と同じくらいに空調がよいところでしたよ。‥‥我が友人の大切なお可愛らしい方に無粋な煙草の匂いなど移らせておりませんので、ご心配なく。」
危うくドアを開けそこねてガラスに激突しかけたのは、心優しく少しだけ意地の悪い年長の友人は、見なかったことにしてくれるらしい。
「ん、ぅ、いぎりす、さん」
「‥‥可愛い声」
甘い甘い声は、いかにも綺麗な彼女の大地の空気を吸って育った、澄んだ音色だ。
今は上限知らずの熱に潤んで、音の端をやんわりと空気に解いて恐ろしく可愛らしく、そしてエロティックだ。
しっとりと滑らかな素肌は瑞々しく、細部に至るまでが繊細な泡菓子のように柔らかい。
首に絡められた華奢な腕も、熱と快楽に桃色に上気した頬も、そしてイギリスを包み込み最奥へと誘うべく震える、熱く繊細な場所も。
「んぁ‥‥っ」
「今日は、ゆっくりな。‥‥本当、今日の会議疲れたっつの‥‥」
「もう、律儀に、つきあってる、からです、よぉ‥‥ふふ」
「まったくだ」
甘く潤んだ声音の半畳に苦笑しながら、ゆっくりと身体を動かす。
普段よりもスローペースで織り上げていく快楽に身体を震わせながら、少し控えめな甘い声で鳴く彼女の、ふんわりと蕩けそうに柔らかな身体をイギリスはそっと抱き寄せる。隙間なく合わさった素肌同士で交わす甘い睦言は、身体の内側から湧き出す快楽に勝るとも劣らない、心地よさだ。
最小限まで絞ったベッドランプの明かりの中で、柔らかく滲んだ恋人の笑顔を見る。
「ん、可愛い、やらしい顔してる。‥‥もっと、感じろよ」
「ぁ、あ、‥‥いぎりす、さん‥‥ひぅッ」
穏やかな交歓の中で幾度となくくちづけを交わし、真白い肌に浮いた汗さえも甘く思えて舌を這わせば、彼女に繋がる全ての場所が震え戦慄き、イギリスを熱く締め付けた。
頂点に上り詰めたがる身体反応をどうにかやり過ごし、背中に縋る彼女の指先に背中を掻かれるのに苦笑しながら、甘い声で愛を囁く。
抱き締めた恋人の身体から立ち昇るのは、甘い、甘い匂い。
と、熱く喘いでいた彼女の唇が、不意にほんわりと笑みを形作る。
「‥‥カナダ?どうか、したか?」
「‥‥‥‥イギリスさん、煙草の匂い、するね」
「あ?」
イギリスの腰使いに合わせて卑猥に身体を揺らしながら言われたのは、これまでに彼女から幾度も聞いた台詞だ。
彼女に煙草を吸わせない。
それはイギリスのなかの動かしがたい決め事だ。
別段彼女が煙草を吸いたがっているようにも見えないし、喫煙した様子も見受けられないのだが(そこは兄弟たるアメリカと同じく、好奇心が動かなかったのだろう)、ことあるごとにイギリスは言ってきた。煙草は、吸うなと。
その度、従順に頷きつつもどこか拗ねた風に見えるときもあったのだが、‥‥今日はその様子が、まったくない。それどころか、どこか楽しげにさえ見える。
『ただ、あなたの恋人は決してあなたを子ども扱いしているわけではない、という内容のことを言っただけです』
滑らかな友人の声がフラッシュバックする。‥‥一体日本は、何をどう言ったんだ?
「‥‥お前、日本と何話してたんだよ?」
イギリスの腕の中、機嫌良さげに甘そうな唇に笑みを刷き、イギリスの身体をまさぐるようにして柔らかな身体を擦り付けてきていたカナダが、イギリスの言葉にふっと顔を上げた。
熱に潤んだ優しい青灰の瞳に宿るのは、恋人の腕の中に居る安心感と、身体の内側を蕩かす快感。確かな、恋情。
カナダが微笑む。ふわりと、甘い彼女の匂いがイギリスを包んだ。
どこか素朴で、遠い遠い美しい光景を、優しかった幸せの時代を思い出させるような。余計なものに染まらない、仄かに甘い、この恋人だけが持つ匂い。
この匂いが好きだと思う。
柔らかな優しいこの匂いをまとう、彼女が好きだ。
「なぁ、カナダ」
「‥‥ふふ、秘密、ですよ。‥‥それより、ね‥‥?」
「んー?‥‥んー‥‥」
ちゅ、と可愛い音をたてて強請るキスは、イギリスが教えたもの。
甘い匂いのする柔らかな恋人の唇と、きゅうと甘く締め付けてくる感触に。微妙に流されてるなと自覚はしつつも、敢えて抗えるほどに自分も、大人ではない。
そう、愛らしく健気な恋人に、彼女自身と自分以外の匂いなんて纏わせたくはないくらいには。
かつて好奇心に駆られて手を出した煙草のように、絡め落とされ、もう手放せない。
「んんッ、ぁン、イギリスさ、ふぁ、好き、好きだよ‥‥ッ」
「ん、俺もな。‥‥ッは、ぁ、愛してるよ、カナダ」
だからお前は、煙草は吸うな、と。
この期に及んでお決まりの台詞を言い渡せば、甘い鳴き声をあげながら彼女が愛らしく笑った。
キスを強請る唇にたっぷりと愛情を込めたくちづけを贈る。「いぎりすさんの、たばこの味、する」と、快楽にぼやけて少し舌ったらずな甘い声に、イギリスもまた、笑った。
この先もずっと煙草の味と匂いは、俺の舌越しにでしか、知らないままでいてくれよ?
我が侭スモーキーキャット
end.(2009.08.01)
煙草に好奇心発揮するくらいなら、俺に好奇心持ち続けてろ!
垣間見えた「オトナなイギリスさん」の可愛さにニヨニヨしてるカナちゃん(´∀`)
我が侭なオトコは大半ウザくてときどき可愛いんだよね。時々ね(笑)