頼られるのは存外嬉しいものだ。

もっとも、寄りかかられるのはゴメンなのだが。
いつだって余裕は持っていたいしそう見せてもいたいけれど、人様のなにからなにまで背負えるほどには、余裕があるわけじゃないから。
けれど、頼られるのはいい。
少しだけ、頑張ってはみたけれどそれでも補えなかった部分だとか、もう自分ではどうしようもない部分を、頼られる。

頼りに思われる、フランスだからこそ頼ってみようと思われる。それはなんて優越感!そう、そんな具合だ。

「‥‥ひゃぅッ!」
「だーいじょうぶ。落ち着いて、カナ」

‥‥そんな具合で、フランスはカナダを腕に抱いて、否、彼女に力いっぱい抱きつかれて、自宅での映画鑑賞中。
震える彼女の頭を撫でつつ、恐怖をいや増す音楽に、己のため息を混ぜながら。









ことの始まりは、例によって彼女の『きょうだい』であるところの、快活な青年だった。‥‥らしい。
フランスの自己体験であるのに伝聞系なのは、涙目でDVD、判り易くおどろおどろしいゾンビの群れ、の前を何故か機関銃を抱えたヒロインらしき美女が走るパッケージの其れを片手にアパルトマンのチャイムを鳴らしてきた、娘でもありそれ以上でもあるカナダの、あのおっとりと主題がそれがちな言葉からどうにか聞き取った結果であるからだ。

『ふふふ、ふら、フランスさん‥‥』
『ああ、はいはいわかったから。うん、とりあえず家にあがりな?』

話はそれから、とばかりに潤んだ湖水色の瞳で見上げてくるカナダを抱き寄せ、両の頬へと軽いキスをしてから、ソファのある居間へとエスコートした。その間も、カナダは妙にフランスへとくっつきたがり‥‥いや、それは単純に男として、非常に喜ばしいシチュエーションではあったのだが。

「‥‥ッ!」
「うん、大丈夫お兄さん此処にいるから」

室内灯を消して、スタンドタイプのライトのみをつけたリビングは、薄暗い。
ソファと、少し旧型の液晶テレビ。
ホラームービーを堪能するには十分なセッティングだろう。
物語も終盤に差し掛かり、最早声も出ないほどに恐怖が最高潮に達している可愛い彼女の身体を、抱き寄せるを通り越して膝に抱き上げながら、フランスは意識して落ち着いた、低い声で囁く。
小刻みに震える身体はフランスが知る普段どおりのしなやかさではあるのだが、窓をぶち破って侵入しヒロインへと迫るゾンビの集団を前にして、画面内のいかにもスプラッタで微妙にエロティックな展開になりそうな美女宜しく、声も出ないほどに強張ってしまっていた。
フランスの胸元にあるシャツを華奢な手で握り締め、恐怖しているくせ瞬きも忘れる勢いで画面に見入るカナダに、フランスはその髪を緩く梳いてやりながら、口の端だけで苦笑したものだ。
カナダを抱いて座るフランスの前に置かれたテーブル上には、彼女の為のドリンクとお菓子を用意していたのだが、その双方ともに手をつけた様子はなく。当たり前といえば当たり前である、なにせこのDVDが再生された5分後には最初の犠牲者が出て、その決定的な一瞬を見まいと、カナダは隣に座って寛ぐ身体へと、縋りついたのだから。

そもそも、あの大陸に住まうきょうだいは、ホラーが大の苦手なのだ。
にもかかわらず、どういうわけかフランスや彼らの兄であり母親でもある(‥‥長男のほうは強固に否定しそうな肩書きだが)イギリスに較べて、やたらとホラームービーを観たがる傾向がある。

本当に何故だ。幾度もフランスはそう思ったものだ。
というか、実際に問いただすとまではいかないものの、訊いたことはある。

『だ、だってアメリカが自信作だよ!って自慢するからっ、‥‥わ、私だってこれくらい怖がらずにみれるもん、って‥‥』
『‥‥お前は意外に意地っ張りさんだよねぇ』
『ううう‥‥』

口ごもる彼女に、フランスは緩く笑いながら応じたものだ。
君には怖くって見れないだろう、とでも言ったのだろう彼女の兄弟本人はといえば、カナダにとってのフランス宜しく嘗ての兄だの東洋の優しすぎる島国だのを巻き込んで震えていること確実なわけだが。

(‥‥いや、この子と俺の関係とは違うか)

「きゃあぁ!」

腕の中からあがった可愛い叫び声に、フランスは殆ど無意識で抱き締める腕を強めて応えつつ、ぼんやりと考え。そして、ニンマリと笑った。

‥‥そうとも、こういったシチュエーションは、決して珍しいことではない。
ホラーが嫌いなクセに、ホラー映画は観たがり、ついでに作りたがる。ワケがわからない。
わからないのだが。

「ふ、ふらっ、ふら、す、さ‥‥ッ」
「うん、俺だよ、此処に居るから大丈夫」
「‥‥っ!」

ぎゅうぎゅうとしがみついてくる彼女を、普段の倍増しで穏やかな声を心がけて、宥める。
華奢な身体を抱き締め、こすり付けられる頭を頼もしく胸に招き入れて、時折柔らかなくちづけも織り交ぜて。
膝上に抱いた彼女が、その愛らしいワンピースの下に慎ましやかに収めている大胆な肢体を、膝だの胸元だので味わいつつ。

「カーナ。ほら、俺がぎゅってしてるでしょ?」
「う、うん‥‥っ」

ゾンビの集団に何故か服を剥かれつつ(‥‥本当に何故だろうか)それでも果敢に戦おうとするヒロインを、震えつつも見つめるカナダとはまた別の意味で堪能しながら、フランスは膝に乗せた、スクリーンの向こう側にいる美女に勝るとも劣らない容貌の彼女を抱き締めて、囁く。

‥‥まぁ、頼られるのは、純粋に嬉しいのだ。それがどんな理由であれ。

フランスは誰に言うともなしにぼんやりと思考する。
そう、頼られるのは、嬉しいことだ。ゼロから全て頼られるのは正直重荷だと思うのだが。
けれど仮にそうして頼られたとしても、この可愛い娘でもあり、今ではそれ以上に大切な彼女ならば、きっと喜んでフォローをしただろう。‥‥もっとも、そんな風に全てを頼りきろうとしないカナダがいとおしいのもまた事実だ。
今回の件にせよ、カナダは自宅で一人、それこそ映画のヒロイン宜しく果敢にも観賞しようと頑張って、頑張った結果が開始5分の刺激的なシーンで耐えられなくなってフランスの家を訪ねた、というものらしい。‥‥なんというか、実に微笑ましいとフランスは画面上のドロドロとした謎の体液飛び散るゾンビと闘う半裸の美女を観賞しつつ、思ったものである。
彼女は『カナダ』。植民地の身分から長い時間をかけ主権を手にした『国』である以上、際立つものではないにせよ彼女の根幹を支える自立心は、当然なのだろう。イギリスやフランス、そして多くの移民を受け入れる土壌ならではの他国へのおおらかな親しみはあるにせよ。

けれど、ともすぐに思う。
けれどもしも、自分と彼女が今のポジション、関係を結んでいなければ。
もしも、『かつての、初めての宗主国』という肩書きから脱していなければ、きっと彼女はこんな風にフランスの膝には乗っていなかった。
どちらかといえば、フランスではなくて彼女の優しく厳しく甲斐甲斐しい母親である(隣国に対してはあんなにも悪辣であるのに!)島国の元へ行くか、あるいは世界有数のサイコ系ホラーが大好きでありカナダにとってもそこそこに親しみを感じられる東洋の島国の元へといっていただろう。彼女のきょうだいであるアメリカと、同様に。

けれど、カナダが頼ってくるのは、フランス。
可愛い可愛い彼女が頼るのは、『恋人』であるフランス。




(‥‥恋人に頼られる、それはなんて優越感!)




「フランスさん‥‥」
「お、そろそろ決着かなー?」

カナダの呼び声にテレビ画面を観れば、おどろおどろしいゾンビの群れから逃れた美女が朝日の中で、やはり此方も修羅場を潜り抜けてきた恋人らしき傷だらけの青年の腕へと飛び込むシーンに切り替わっていた。ホラーでスプラッタでドラマティックなハッピーエンドのラブストーリー。‥‥純然たるホラーより、これぞエンターティンメントというかなんでもなりの詰め込みお約束大展開というか文字どおりのアメリカンドリームというか。
はっきりいってフランス自身はロード中ずっと画面の前に居たにもかかわらず話の内容はからきし覚えていないのだが、若く快活な夢想屋でもあるアメリカが好きそうな展開だ、とだけは思った。

それは結構、彼の最も近しいきょうだいである、今恋人の腕の中で画面をうっとりと観ている彼女も、同様なわけで。

「よかったぁ‥‥」
「ああ、恋人のもとに帰れたしねー?」
「うん」

きゅぅっとフランスのシャツの胸元を、今は恐怖ではなくて感動に握り締めているらしき恋人のこめかみに、フランスはちゅっと軽いキスを贈る。
その甘い感触に、画面へと見入っていたカナダがパッと顔を上げて、今更ながら自身の体勢を思い出したのか、フランスの膝の上でモソモソと身体を揺らした。

「カーナ。ほら、映画もう少しで終わるんだから、大人しくして」
「え、あう、‥‥はい」

大人がこどもを宥めるような口調で、膝上のカナダへと囁けば、ピクンと身体を震わせた後、フランスの腕の中で、大人しくなった。
その様子に、フランスは口の端で薄く笑う。‥‥暗くした室内の灯りでもわかる、ほんのりと赤く染まった耳や目元。
一見テレビへと視線を戻しているようにも見えるが、実際には少々俯き加減で、ヘタをすれば彼女の好きそうなドラマティックなキスシーンも目に入っていないのかもしれない。




(‥‥まぁ、それでも良いのだけれど。)




「カナ。‥‥カナダ、こっち」
「え?‥‥んぅ、」

細い顎先を掬い上げるようにして唇をあわせて贈るのは、テレビ画面の向こうで展開されるキスシーンよりも、もっとずっととびきり甘い、甘いくちづけ。

「‥‥ふぁ、フランス、さん、」
「ヒロインは無事に恋人のもとへと帰れたし、カナは怖〜いホラーを最後まで見終えたし。二人ともよく頑張りましたのキスです。良かったね?」
「え、あ。‥‥は、はい」

くたりと力の抜けた身体を支えるように抱き締めながら、キスに濡れた唇を指の腹でそっとぬぐって囁けば、蕩けた彼女がほんのり甘い色を乗せた頬と湖水色の瞳で恋人へと視線を返しながら、頷く。
それから、ほんわりととても可愛らしく笑った。

「一緒に観てくれて、ありがと、フランスさん」
「うんうん、お兄さんのこといつでも頼ってくれていいからね?‥‥それでね、」
「え?」

テレビ画面ではヒロインである美女が華やかな笑みを恋人に向けて、感動的で壮大な音楽を伴うエンディング。
ソファの上では、可愛い笑顔にきょとんとした風を乗せて、恋人へと視線を返すカナダ。

「大変よく頑張った俺のヒロインから、それを見守っていた頼りになる恋人へのお礼なんかあれば、嬉しいんだけど?」
「‥‥もう、ばかぁ」

甘い声の罵倒は、けれどそれ以上に甘いくちづけを伴って。
壮大な音楽つきのエンドロールはどうやら観ないまま、ホラー色のないラブストーリーの始まりは、柔らかな恋人の肢体を抱き上げてベッドルームへと誘うフランスの足音と甘いリップ音で開始した、‥‥らしい。
伝聞系なのは、それが秘密にしておきたい甘い甘い物語だからだ。









(‥‥映画化はしないよ、なんてね?)









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end.(2009.07.11)

映画はバイオハザードとエイリアンとミザリーを足して割った感じのもので!(笑)
ハリウッド映画のキスシーンは斜め上方から360度回転で撮るのが多いよね^^お約束なんですかね?
このカナちゃんとメリカは普通に仲良しきょうだい。
英にょ加設定になるともれなくメリカが片想い。
‥‥うん本当はイギ様とカナちゃんの話でした。そちらも機会があれば!