※メリカも女の子です。カナちゃんとは姉妹です。ほんのり英にょ米。
女性が髪を触る仕草は、甘えたい気分や寂しさをアピールするものである、らしい。
‥‥という知識をフランスが手に入れたのは、可愛い可愛い恋人が本日世界会議の議場となったホテル内のスタンドでクレープと一緒に買ったという、女性向けファッション誌のコラムからだった。
カラフルな文面には、何気ない仕草に現れる感情をうまく制御することで、意中の相手の気を意識的にひくだとかなんだとか。ずらりと並ぶもっともらしい心理学のレトリック。
手慰みに斜めに読むには十分興味を引かれる話題であるが、気を惹かれる側の性としてはいわく言い難い笑みも漏れてくる。斯くも女性の計算は、緻密でありながら他愛なく、少し怖いけれど抱き締めたいほど健気。甘えたい気分や寂しさを、言葉に依らずにと伝えようとする彼女達は、一人残らず可愛らしい。
そう、それが、可愛い可愛い恋人ならば尚のこと、ではあるのだけれど。
‥‥このコのこれは、ちょっと違うなぁ。
「カナダ。どうしたの、髪、邪魔?」
「‥‥、‥‥え?」
膝上に乗せていたファッション誌を傍らに避けながら訊けば、もう一方の隣りに座って同じく文面を追っていたカナダが、ニ呼吸ほど置いてから顔をあげた。
その拍子、おさげに結ったふわふわの巻き毛が華奢な肩を緩やかにすべり落ちる。
「えっと、ごめんなさい、よく聞いてませんでした。あの、フランスさん何か言いました?」
おっとりと隣りあって座る此方を見上げてきた恋人に視線を返しつつ、フランスは緩く笑うことで返事とした。
何事にもおっとりとした彼女ではあるが、今のニ呼吸は純粋に小難しい言葉の羅列を追うのに集中していたが為のタイムラグだ。フランスが視線を下げ気味にして一瞬向けた先には、素っ気無い白い紙に踊る堅苦しさの極みとでもいうべき言葉で記された議事録。‥‥ああ、まったく、むっちりと柔らかな太腿にのせられているには全くもって相応しくない!
因みにフランスも彼女の太腿を独占するものと同じ議事録を確かに受け取り、持ち帰りもしてはいたのだが、一日の仕事を終えて帰った自宅の玄関先で同じく(否、書類なんかよりもよっぽど丁重に!)お持ち帰りした恋人に甘い愛の言葉と熱烈なくちづけを贈ることを優先した結果、シューロッカーの上にアタッシェごと放置してそれきりであったりする。
大丈夫大丈夫、俺の上司は女関係はアレでソレだけど仕事は出来るからお任せして大丈夫だからね平気だもん!‥‥と、当の上司が聞けばエスカルゴ(生)を投げつけてきそうなことを晴れやかに考えるフランスとは違い、海峡向こうに帰ったばかりの母親の生真面目さを受け継いだカナダは、美味しい夕食とたっぷりと熱いシャワーを済ませた後、フランスが軽いアルコールを準備している間に気がつけば本日まとめのお仕事真っ最中、という現状だ。
因みにリビング、ソファの上。触れる肩は恋人距離。
傍らに投げたファッション誌、太腿の上の書類、白い指先。
メイプルシュガーカラーの柔らかい巻き毛が、小首を傾げた彼女の額と肩に揺れる。
「フランスさん?‥‥ひゃ、」
「うん、それ」
言いながら片手で掴まえた白い指先越し、不意のアクションに驚いたのか湖水色がいまにも零れそうに見開かれた目に微笑みかける。途端、僅かに子どもの曲線を残したなめらかな頬が薔薇色に染まるのに、フランスは安堵にも似た感覚を覚えた。
握りこんだ手の中には目線の高さまで掲げられた、白くふっくりとした恋人の指。
「あ、あのっ、フランスさん?」
「さっきからね、カナの手がすごくお仕事してるみたいだったから」
「‥‥え?」
「髪。」
返したのは簡潔すぎる単語と、もう片方の手で彼女の髪をくしけずる指と。
フランスは軽く上体を捻って隣に座る彼女を半ば抱き込むようにすると、自分に良く似た柔らかな巻き毛を、先ほどまで彼女が繰り返していたのと同じルートを辿るように、手櫛で梳き下ろす。
後ろ髪は耳の後ろで結われているから、前髪だけ。額の中央から、耳の縁へ。少し長めの其れを小さな耳にかけてあげたけれど、ゆるく巻いている毛先が邪魔をするのか直ぐにするりと解け落ち、目尻から頬の辺りへと零れかかる。
目尻をくすぐる髪がくすぐったかったのか、ん、と可愛らしい声をあげた彼女がふるんと身体を揺らして、きゅっと目を閉じた。どこかあどけない仕草に、フランスは優しく笑いながら目尻に毛先があたっている髪を、丁寧に指に絡め取るようにして避けてやる。
「あー‥‥視界に入っちゃうのかな、これ」
「‥‥あの、」
「カナ、無意識だった?さっきからずっと、書類見てるときもこうやって自分の手で、髪かきあげてたよ」
目を閉じたままながら、声のほうへだろう顎を上げるようにして軽く仰のいたカナダに、フランスは優しく語りかけながら握り込んでいた彼女の手のひらを軽くあやすように揺らしてみせた。もう片方の手で尚も零れる髪を後ろへと撫で付けるように、優しく梳く。
先ほどフランスが暇を持て余してファッション誌を見ている間も、傍らで議事録に集中している彼女の白い手が時折その巻き毛をかきあげていたのだ。
結っている後ろ髪はともかく、額に落ちかかる前髪はふわふわとした髪質のせいか耳横へと撫で付けても余り効果はなく。腿に置いて読んでいた議事録のせいで若干背中を丸めていたのも影響しているのだろう、耳にかけた前髪がするすると零れ落ちるのにその都度白い指先がシュガーカラーの髪を弄るのが、フランスは気になっていたのである。
甘えたい気分だとか寂しいから、というのではなく、ただ純粋に鬱陶しいから。
そう言いたげな仕草は、けれどおっとりとした彼女らしい、可愛らしい仕草ではあったけれど。
「どうしたの、いつもつけてる髪留めは?」
「あ、その、アメリカが持って帰っちゃって‥‥」
「アメリカ?‥‥ああ、」
おずおずとした声で告げられた言葉に、一拍置いてからフランスは納得した。
「そっか。あの子とお揃いだったね、間違えられちゃったの?」
「はい。会議が終わって帰る前に控え室でアメリカと髪型いじって遊んでたんですけど、その時に。追いかけたんですけど、間に合わなくって」
「ふぅん。なんかいかにも姉妹って感じの遊びだね」
どこかおっとり微妙にうっすらとしたカナダに較べ、常にエネルギッシュで活動的な彼女の姉妹を思うに、鏡を前に髪留めやブラシ片手に互いの髪を触りあっている姿というのは想像できるような、出来ないような。むしろバットのひとつも振り回してるほうがよっぽど想像が出来る。
恋人の姉妹に対して微妙に失礼なことを考えたのが指先越しに伝わったのか、大人しく前髪を触らせていたカナダがふるふるっと首を振ってフランスの指を払うと、ツンと唇を尖らせてフランスをねめつけてきた。
「もう、アメリカも女の子なんだから。それに今日は会議が終わったらイギリスさんのお家に行くからって、お洒落だって頑張ってたんだよ?」
「あ、だからファッション誌買ったの?‥‥ごめんって。そうね、女の子はいつも頑張ってるよね」
「そうだよ」
「カナダも?頑張ってる?」
「‥‥そうだよ」
恋人の太腿を独占していた書類が滑り落ちる寸前、取り上げて傍らに放ったその手でフランスは、そんな毎日頑張っている可愛い恋人を、己の太腿の上に抱き上げる。書類などよりよっぽど太腿にも心にも優しい重みだ。
議事録の整理もきり良いところだったのか、勝手をしたフランスにカナダも怒るでもなく、素直に身体を凭せ掛けてくる。ほんのり温かく、ほんのり甘い匂い。そのまま抱き締めれば、二つに結った巻き毛とサイドに流れきらない前髪がフランスの顎をくすぐる。
「‥‥ん、」
「カナ、可愛いね」
チュ、と唇を触れ合わせるだけのキスに続いて、滑らかな額にもくちづけを落とす。髪留めがないせいか、いつもであればいくらか覗いている額も、今日はふわふわの髪を指先で掻き分けなければ可愛い白い肌に辿り着けない。
ゆっくりとした動きで前髪を後ろへと流すように手櫛をいれれば、「くすぐったい」と囁くように言った恋人がくすくすと笑って抱きついてきた。女性ならではの柔らかで甘い感触に、フランスは笑いたくなるような幸せを感じる。
髪をはらった目尻に、きゅっと寄せられた眉間に、ほんのりと薔薇色に染まった頬に、甘い甘い唇に。顔じゅうにキスの雨を降らせながら、前髪を梳いていた指先で、後ろ髪を結わえていたリボンを解く。
ふわりと広がるメイプルシュガーカラー、ふわふわとして毛先がくるっと巻いた巻き毛は、かつて自分が彼女にあげたもの。
「ね、カナダ?俺の可愛い頑張り屋さん?もう今日はお仕事終わりでいいよね?」
「うん」
「じゃ、あとはお兄さんと仲良くしてくれる?」
「ふふ、してあげる」
「Merci.」
愛らしい巻き毛をふわりと広げ、啄ばむようなくちづけをくれたのに、フランスは甘く笑って恋人を抱き締めた。
うなじを支えるようにして仰のかせてするキスの最中、腕をくすぐる巻き毛を愛しさを込めて丁寧に、梳く。大切に、触る。
女性が髪を触る仕草は、甘えたい気分や寂しさをアピールするものである、らしい。
‥‥なら、その女性の髪に触りたい男もやっぱり、甘えたくて寂しさアピール?
「どちらかというと愛しさアピールかなぁ」
ベッドシーツに広がる髪を弄りつつ思わず零した、そんな声に返されたのは、「‥‥もう、集中して」なんて少し拗ねた可愛い文句と袖を引いてくる白い指。
何気ない仕草に意識的に媚態なんて込めなくとも、いつだってフランスの目を心を惹きつける恋人の仕草と声にフランスは笑うと、あとは優しく甘い時間を恋人と共に堪能すべく、優しく甘く、彼女を抱き締めた。
pretty cute rhetoric
end.(2010.09.05)
カナ子ちゃん祭りはーじまーるよー!