真っ青な空にぷかぷかと浮いてる白い雲が、あまぁい甘い綿菓子みたいだった。
冬も間近な季節しては麗らかな晴天に、肩から掛けたクラシックなマントが少し暑い。
ジョグには不向きなタキシードは、仮装用のアバウトな作りではあるのだけれど。
キミの家に向かうポプラとメイプルツリーの並木道、最後の坂道を駆け上がるのは、陽光なんて負けないヴァンパイアの底力だ!!




「Happy Halloween !! Hi my sweet, "Trick or Treat!"」
「‥‥‥‥‥‥。ハッピーハロウィーン、マイブラザー。ていうか、既にイタズラされてる気がするんだけど」
「え?イタズラってこういうのかい?」
「ン‥‥ッ、違う!!ドアッ!!」

‥‥ちょっとキミ、痛いよ。痛いってば、顎!

顎先グイグイと下から掌底で押し上げてくるカナダの、手首を片手でどうにか引き剥がして、もう一方の腕で腰を抱き取るようにして抱き締める。身長は俺のほうがほんのちょっぴり高いくらいだけれど、彼はひょろりとしてるから抱き締めるのなんてとっても簡単さ。
いつもと変わらない、メイプルシュガーで作ったふわふわの綿菓子みたいな淡い色の髪に頬を擦り寄せれば、なんだか呆れたようなため息が聞こえたけれど、無視する。何故って、そのふっくらした甘い匂いのする頬や出会い頭のキスに濡れた唇が、離さないでって言ってるからね。ああ、なんて俺は空気を読む男だろう。これなら日本もKY返上なんて言って拍手くらいしてくれるんじゃないかな、うん。
でもまぁ、今この場、つまりカナダの自宅の玄関先なんだけど、此処に居るのは俺と、家主であるカナダだけだけどね。
ほんのり頬を赤らませたまま、腕の中から俺を見上げてくる彼はとっても可愛く、甘い匂い。
ちょっと眉尻をへにょんと落として淡い色の瞳で見上げてくるものだから、俺はヒーローっぽく笑ったものさ。爽やかにね!彼は俺のこの笑顔が大好きなんだ。
うん、大抵のことは許してもらえる。
‥‥うん、ドアを蹴り開けて登場したせいでちょうつがいが吹っ飛んだくらいは、許してもらえる、と思う。‥‥たぶん。

「ああもうキミってヤツは‥‥。ドアは直して帰ってくれよ?‥‥ふふ」
「Okey-dokey!」

ウインクをオプションして軽やかに応えたら、腕の中のカナダがほにゃっと笑った。ああ、カナダだ。俺の兄弟、甘い匂いの、可愛い恋人。ジーンズにパーカー、普段どおりの‥‥って、あれ?

「なに、アメリカ?」
「カナダ、キミ、今年は仮装してないのかい?」

腕の中から開放した彼は、とっても普通の彼だった。
まぁつまり、普段着のって意味さ。‥‥いや、今日その普段着を着てる時点で、普通じゃないんじゃないかなぁ。

「今日はハロウィンだぞ!なんで仮装してないのさ」

言いながら彼を腕の中から開放し、俺はバサァッと着ていたヴァンパイアマントを広げて見せた。
天候に恵まれた今年は街の目抜き通りのパレードだってとっても華やかだったし、ここ数十年ほどの商業化の波も手伝ってか、それはそれは盛大で楽しそうなものになっていた。
俺はこうしてカナダの家に来る為に殆ど素通りしてきたけれど、道を行く陽気な何人かに声を掛けられたし、俺もヴァンパイアっぽくアクションしてみたりと、少しだけ楽しんできたものだ。

「んー?なんか、今年は夜にご近所の小さい子が地区内を巡るっていうからさ。朝からずっとお菓子の用意に追われてたら、仮装とか忘れてたよ。あはは」

アメリカの衣装カッコイイね、吸血鬼?なんて。
ほにゃほにゃと笑うカナダからは、なるほどとっても甘い匂いが立ち昇っていた。セサミクッキー、いや、メイプルキャンディかな。
彼の作るお菓子はおおざっぱな割りに、結構、いやかなり美味しい。
彼の育て親みたいな(勿論イギリスのことじゃないぞ!)凝った繊細な料理は作らないけれど、甘くってあったかくって、美味しいんだ。つまり、うん、俺好みっていう。

『アメリカ、おやつ食べるかい?』

ずっとずっと小さかった頃から変わらない、ふわふわした言葉を聞けるのは、俺だけなんだ。
‥‥いいなぁお菓子。俺も食べたいんだぞ。

と、そこまで考えたところで、そもそも俺が今日彼を訪ねた理由を思い出した。
派手に蹴倒された(いや俺がやったんだけど)ドアを壁に立て掛けながら、もうこれ本当にちゃんと直るのかい?なんてぶつくさ言ってる彼を背後から、ぎゅっと抱き締める。
抱き締めた身体からは、甘い匂い。

「ひゃっ!って、何だいアメリカ、びっくりさせないでくれよ」
「カーナダ。‥‥なぁ、キミ、近所の子どもにお菓子をあげる前に、俺に付き合ってくれるべきだろう?」
「へ?」

きょとんとした顔で肩越しに振り返る恋人は、とっても甘くて美味しそう。
今日の俺はヴァンパイア。服装はタキシードにマント、それからフェイクの牙なんだけど、ああ、今ちょっと吸血鬼の気分がわかる気がするぞ。
甘くて美味しそうな匂いのする恋人の、その白い首筋に咬み付きたい!
ふぅ、って首筋に息を吹きかけたら、腕の中の身体がふるんと震えたのが解る。すごく可愛い。
なんだっけこういう時って。
そうそう、「食べちゃいたい」?

‥‥Yes,"Trick"!

「なぁカナダ。"Trick or Treat." 俺は、お菓子より君が食べ‥‥」
「ああはいはい、お菓子だよね。はい!」
「ふがッ!」

‥‥‥‥。なぁ、カナダ。
俺は、散々世界中から空気を読まないって言われるけれど、今この時に限っては、君のほうがぶっちぎりで遥か上を行くと思うよ。
と、そんなことを言いたかったのだけれど、それは口の中に(一体どこからいつ取り出したのさ?!)突っ込まれたかなり大きなメイプルクッキーを咀嚼するのに忙しくて、叶わなかった。

「美味しい?」

俺の腕から抜け出て振り返り、にっこり笑う彼は可愛い。
勿論口の中に突っ込まれたクッキーも、とっても美味しい。
‥‥うん、そりゃ、美味しいけどさ?!ああもうっ、そうじゃなくって!

けれど、再びヴァンパイアよろしく恋人を抱き締めて噛りつく、なんてイタズラは、果たせないまま。

何故って、それは。

「ところでアメリカ。今日は近所の小さい子たちのぶんとは別に、君の為にとっても美味しい特製ケーキにクッキーにアイスクリームにマシュマロにチョコレート、用意してるんだけど」
「え!ほ、本当かい?!」
「ああ本当さ。全部、君の為に作ったんだよ。さっき君に食べさせたのとは勿論別に」
「えぁ、それ、俺が食べても、」
「構わないよ。‥‥けれどねアメリカ。今日はハロウィンだよ?」
「‥‥え?」









「"Trick or Treat."‥‥あまぁいお菓子と、僕にイタズラするのと、どっちがいい?」









‥‥‥‥。ああ、うん。カナダのお菓子は、それはそれは美味しいんだ。フランスの其れみたいに凝っちゃいないけれど、小さい頃からずっとずっと、いつだって俺の為に作ってくれるお菓子のおいしさは格別で、だから、‥‥ああもう!!

「‥‥此処で"Treat!"って言ったら男として落第だよね」
「そうだね、即座にドアの外に蹴りだしてから、壊れたドアを君の上にブン投げてやるさ」

幸い、俺は恋人に壊れたドアをブン投げられることもなく、美味しくって甘いお菓子の代わり、とびきり甘くてイタズラな恋人に、思う存分イタズラを仕掛けたってわけさ。

「カッコイイ吸血鬼さんには明日、美味しいお菓子も食べさせてあげるね」

あとドアもちゃんと直してね、なんて。
イタズラっぽく笑って俺の首にするりと腕をかけてきた恋人のキスは、世界中のどんなお菓子よりも、甘くって美味しいなんて、まぁ言うまでもない話だよね!














the end.(2009.10.31)

"trick or treat!"一番スタンダード(´∀`)
このあと夜に子どもがおうちに来るまでイタズラ大会(笑)
うちのカナダさんがメリカに対して少しクールで厳しいのはデフォルトです