ドイツのムキムキがあったかいのはお見通しだ!
‥‥と言って抱きついてきた、あれはイタリアだった。
「ですから、触りません」
そう言つて朗らかに笑んだ君に、何を言うことが出来ただらう。
‥‥と、そんな彼の国の純文学風に思ってみたところで(最近ムラカミハルキの翻訳が本国では人気だが、今回参考(?)にしたのはオウガイだ)、彼の言葉のあまりの理不尽さは言い尽くせないのではなかろうか。
「断言、か」
「はい、断言ですね」
「そ、そうか」
言葉どおりに、断ずるが如くきっぱりと。
イタリアくんからそう聞きましたよ、と断言の理由を日本人らしい完璧な笑顔で言ってのけた彼に、俺は行き場を失った手をぱたりと落とす。
うだるような、と表現するらしいこの国の夏は、確かに『あったかい』ものへ積極的に接触するには、躊躇われる時期かもしれないが。
‥‥そんなに熱いのだろうか、俺は。
そう自問しつつ落とした手でぺたぺたと己の身体を触っていたら、涼やかな笑い声が響いた。
「‥‥笑うな」
「いえ、素直な方だなぁと」
問答になっていない会話に憮然とすれば、笑いを収めた日本が、すみません、と一言。
「‥‥いや、別に謝られることでもないが」
「本当に?」
「‥‥‥‥う、」
‥‥いや、本当に謝られることではない。ないと思う。‥‥思うのだが。
「お前に触れないのは、少し、‥‥ざ、残念だ。あと、寂しい」
「正直でよろしい」
返ってきたのは先生よろしく、いかにも年上然とした言葉だ。
確かに、彼にしてみれば俺など遥か年下の若造に過ぎないわけだが、‥‥恋人に伸ばした腕を拒否されて寂しいと感じるのも、やはり若造だからなのだろうか。
うだるような、彼の国の夏。‥‥くそ、夏なんてさっさと終わってしまえ。
そんなことまで思った俺に、そんなうだるような夏を持つ国から、するりと涼やかな声が差し出された。
「では、私も正直に申し上げましょうか」
「え?」
す、と伸ばされた腕。
『あったかい』らしい俺の腕とは違う、少しひんやりとした手。
ほんの少しだけしっとりと潤んだ感触は、うだるような暑さだからか。
「ドイツさんのムキムキがあったかいのはイタリアくんのみならず私もお見通しですし、さらに申し上げれば其れを知るのは私だけだったらいいのに、と思ったのです。‥‥年甲斐もない嫉妬でした、申し訳ありません」
寂しい思いをさせてごめんなさい。呟かれた、そんな謝罪ごと抱き締める。ひんやりとした手同様、少しひんやりと感じる細い恋人の身体は、とても心地よい。
‥‥ああ、確かに俺の身体(イタリア風に言えばムキムキ、というやつか)は熱いのだろう。日本の身体がこれほど心地よく感じられるのだから。
‥‥彼は、熱いのだろうか。暑いのだろうな。
「あつくるしい身体ですまない」
抱き締めたまま、先手必勝(ちょっと違うか?)で謝罪する。
すると、腕の中から涼やかで甘い声が返ってきた。
「申しましたでしょう、ドイツさんのムキムキがあったかいのはお見通しです。‥‥それに、イタリアくんは腕の強さや胸板の硬さや心音の心地よさまでは、知らないのでしょう?」
うだるような彼の国の夏、眩暈がしそうな可愛い嫉妬を聞かされて。
熱いらしい俺の体温が更に上がったのは、そう、俺のせいではないだろう。
title/炎昼
das ende.(07./2008)
本田さんの可愛い嫉妬。タイトルは夏の季語、焼けつくような真夏の昼のことです。