「ジェリービーンズ食べるかい?チョコバーもあるぞ!」
「いえ、私は‥‥あの、それよりなんでそれショッキングピンク‥‥」
「新しい車を作ったんだ!広くってすっごくかっこいいだろ?日本、公用車にどうかな」
「あー、先日環境配慮型の水素自動車のコンパクトカーを省庁に導入したばかりでして」
「夏はやっぱりプールだね!ほら、日本も泳ごうよ」
「はぁ‥‥すみません、あちらのパラソルで眠っていてもいいですか?」
アメリカさんは、私とは何もかも違うものがお好きです。
カラフルすぎるお菓子。
世界滅亡の危機なんて数え切れないくらいに迎えた映画。
行動力など24時間トップギア。空色の瞳には若者らしく自信が漲って、伸ばした腕をふり払われるなど欠片も考えていないのでしょう。
真っ白の大きな手で、私の手を握りこんで、ひっぱって。
そして、いつだって太陽のように笑う。
「甘いものが食べたいなぁ。日本、お菓子買いに行こう。今日はドーナツだ!」
「はいはい」
「日本は何がいい?俺はこれがいいぞ!あ、こっちもいいなぁ」
「‥‥ああ、私はなんでも」
「そうかい?」
ディスプレイを覗き込んで笑う彼にやわやわと曖昧に笑えば、じゃあ買ってくるね、と快活に言い置いて走っていきます。
私はただ、離されて急に冷たくなった手のひらを少しだけ眺めて、人ごみを避けてぼんやりと待っているだけ。
だって、なにもかも違いすぎるから。もういっそ、なんでもいいというか。
諦めている、というか。
‥‥ああ、でも。
「日本お待たせ!」
「‥‥‥‥あれ、今日は随分と地味なものを‥‥」
「え?だって君、こういうのが好きだろう?俺の好みじゃないけどね!でも一緒に食べるんだし、君が好きなものじゃないと意味ないぞ」
「は?」
「君が喜ばないとね。でないと俺も楽しくないんだ」
何もかも違うこのひとが時折見せる、こういう可愛さときたら、まったく!
「ほら、帰ろうよ!ホラームービーを借りてるんだ、一緒に観てくれるだろう?」
「また貴方はそんなものを‥‥」
「そう言わずにさ、いいだろう、ね?ドーナツ食べながら観よう。コークはもう買い置きしてるんだよ。ポップコーンもあるんだぞ!」
「あー、コーラとポップコーンは遠慮します。‥‥ドーナツだけ」
「そうかい?」
日本は少食だなぁ!そう言ってアメリカさんは、やはり太陽のようにお笑いになります。
「映画を観たら今日は泊まっていくといいよ。‥‥いくだろう?」
「‥‥そうですね、それでは、お邪魔致しましょうか」
「ちっとも邪魔じゃないぞ!きみはちっちゃいからね、全然場所をとらないんだよな。あれってニンジュツか何かかい?」
空色の綺麗な瞳を輝かせて他愛ないことを言うアメリカさんに、それは国家機密なんですと言って曖昧な笑みを返せば、おどけたふうに肩をすくめてから、すいと腕が伸びてきました。
「ドーナツ美味しいといいね!地味だけど」
「そうですね、せっかく貴方が選んでくださったのですし」
「ヒーローの条件に、美味しいドーナツを選べる能力っていうのはあるかな?」
「さて、どうでしょう?」
ふたたび握りこまれた手のひらは、あたたかく。
「‥‥大丈夫、きっと美味しいですよ。貴方が、私の為に選んでくれたものですから」
「え?何か言ったかい?」
呟きに反応したアメリカさんに、曖昧に笑って言葉を濁します。
きょとんとした表情は若い彼を幼くみせて、とても可愛らしい。私の好きな表情のひとつです。
「で、今日はどんな映画なんですか?」
「そうだ!これはこの前うちの会社が作った作品で、ゾンビがね‥‥」
大げさに身震いをしたり、抑揚を付けた口調に軽く頷きながら歩きます。
どこをどうきいてもちっとも怖そうには聞こえない内容ですが、それはいつものこと。
何故と言って、アメリカさんは、私とは何もかも違うものがお好きなのですから。
「まったくもう、観ないという選択肢はないんですか?」
「俺はヒーローだからね!」
「はいはい、そうですか」
アメリカさんは、私とは何もかも違うものがお好きです。
すれ違いながら繰り返される、いつもの台詞と、いつもの相づち。
けれどまあ、今日はいいことにしましょうか。
繋いだ手のひらのあたたかさと、私の為に買われたドーナツと、愛しく可愛い私のヒーローに免じて。
Sunday punch!
終.(2008.11.27)
おじいちゃんと孫みたいですが、一応恋人です(笑)
タイトルは必殺パンチとか剛速球とかそういう意味