私は、眠ることが大好きです。
ぽかぽかした陽だまりで、ふかふかしたお座布団の上に座って、眠る。 なんて素敵な時間でしょう。猫ならば誰でもあこがれるシチュエーションです。

「菊。きーく、座布団、窓際に出しといたからな」
「はい。ありがとうございます、アーサーさん」

アーサーさんは、毎日ぽかぽかした陽だまりに、私のお座布団を置いてくださいます。お座布団も、アーサーさんのお手製です。とってもふかふかで、気持ちがいいのです。

「べ、別に礼を言われることじゃないからな!お前の為じゃない、俺の為だ!」

アーサーさんの足の先をたしたしと叩いて、しっぽをひとつふるりと振って、丁寧にお礼のお辞儀をしたら、アーサーさんは毎日の決まり文句を返してくれます。テンプレート、というやつだそうです。ご近所のフランシスさんが教えてくださいました。‥‥なんだかハァハァ言っていたのは、気にしないことにします。
俺の為だ!というアーサーさんですが、やっぱり私の為だというのは、もう解っているので、まぜっかえさないでおきます。それより、早くお座布団に座りたいし。

ぽかぽかの陽だまりで、ふかふかしたお座布団は、毎日毎日とても気持ちがいいです。‥‥が、うっかりと気持ちが良すぎて、寝返りをうったところでお座布団から転がり落ちてしまいました‥‥。不覚です。私としたことが。
あまりの不覚に、お座布団から転げ落ちたままの体勢でしっぽをぱったぱったとふり、くったりと反省していた私ですが、けれどそんな私の不覚にも、アーサーさんは寛大に振舞ってくださいます。痛くなかったか、菊。そういって抱き上げて、お座布団の上に座りなおさせてくださいました。アーサーさんは、とてもお優しい方です。‥‥なんだかハァハァ言っていたのは、やっぱり気にしないことにします。

「ちょ、ヤベェ写メ‥‥!マシューに自慢するレベルだろこれ‥‥」

‥‥‥‥。やっぱり写真に撮ってたんですね‥‥。不覚。しかしながら、そんな私の不覚も、どうやらアーサーさんと、別のお家にお住まいのマシューさんには、ええと‥‥あ、そうそう、「萌え画像」なのだそうです。やっぱりご近所のフランシスさんが教えてくださいました。彼がハァハァしてるのは仕様なのでしょうか?謎です。

「アーサーさん」
「‥‥ん?なんだ、菊」

携帯電話、という機械を高速で操りながら、けれどアーサーさんはにっこりと優しい笑顔で私の声に応えてくださいます。‥‥パソコンは苦手なくせに携帯電話を打ち込む指捌きが異様に早いのは、「萌え」の力というものでしょうか。

それとも、「俺の可愛いマシュー」さんに、たくさん連絡を取るために頑張った、結果でしょうか。

最近、アーサーさんと、アーサーさんの恋人でいらっしゃるマシューさんは、私やマシューさんのお宅のフレッドくんの写真を交換するのに夢中のようです。『見て見てアーサーさん、フレッド可愛いでしょう!』、そんな画像を、アーサーさんのお膝でぬくぬくしつつ見せてもらったことが、幾度かあります。 その度に、アーサーさんは私を抱き上げて、じーっと見つめたあとで「‥‥いや、マシューの言葉とはいえやっぱり菊のほうが‥‥」とかなんとか、ぽそぽそと呟きます。脇の下に手を入れて抱き上げられるというか、吊り上げられるのは足元が不安定で怖いので、しっぽでぺしぺしとアーサーさんの手を叩いて、怖いからぎゅってしてください、と言ったら、何故だかアーサーさんはふるふると震えて(寒かったのでしょうか?)「やっぱり菊がいちばん可愛いからな!」と私を抱きしめてくださいました。足元が安定したから、いいのですけれど。

「‥‥よし、送信と。あーもうこれ最高だろ。クソ、動画で撮ればよかったぜ」

‥‥。私の不覚を動画でまで残されるのはさすがに困りものです。次からはお座布団から落ちないようにしなくては。

とまぁ、それはともかく。

可愛いだとか。萌えだとか。
アーサーさんもマシューさんも、たくさんたくさん私やフレッドさんの画像を送りあっているわけですが。

でも、本当は私、知っているのです。
アーサーさんが、「最高」って言って、時々眺めてる、写真。




マシューさんの、笑顔の、写真。




まったく、お二人とも、私たちの写真なんて送りあうより、お互いのお写真を送りあっていたほうが、よっぽど「萌え」るんじゃないでしょうか。いつも思っているのですが、アーサーさんが写真を送るべく携帯を操っている最中はなんだか不可思議なオーラが出ていて話しかけれないので、言えず仕舞いです。(「それが萌えっていうもんだよ、菊ちゃん」とフランシスさんは笑って教えてくださいました。フランシスさんは物知りです。でもいつもハァハァしているのは本当に何故でしょう?アーサーさんに訊いてみるべきでしょうか。)

「菊、菊。こっち向いて、笑ってみな」

携帯電話のカメラを向けていうアーサーさん。
ええ、いつか、教えてあげようと思います。

「うん、可愛い。菊は可愛いな。ほら、こい」

携帯を閉じて差し出された手のひらに、そっと両手を乗せたら、ふわりと抱き上げられます。

「アーサーさん」
「うん?」

‥‥そうやって、甘く微笑んでる顔。
そういうの、マシューさんにたくさんたくさんあげたなら、マシューさんも、やっぱり甘い甘い、可愛い笑顔を返してくれるんですよ、って。 教えてあげたら、アーサーさんはご自分の写真を、マシューさんに送るのでしょうか?私の写真なんかより、きっとマシューさんは喜ぶのに。 アーサーさん、まだまだですね。
こうなったら、いつか私がアーサーさんのお写真をとって、マシューさんに送ってあげようと思います。うん、なかなかいいアイデアです。




後日、この提案をフランシスさんに相談したら、「‥‥あー、そういうのはね、二人の秘密の時間にだけ、見せ合ってるからね」といわれました。残念、企画倒れです。
ぱたん、としっぽを落としたら、やっぱりハァハァしながらフランシスさんが頭を撫でてくれました。‥‥ちょっと怖かったので、すぐに走ってアーサーさんのところに帰りました。
その日の夕ごはん前、ご近所から「菊に手ェだすんじゃねーこのエロヒゲがああぁあ!!」となんだかアーサーさんに似た怖い声がしましたが、ふかふかのお座布団が気持ちよくて眠ってしまったので、よくわかりません。









the end.(2009.03.09)

菊さんはにゃんこなので、深く考えません。