僕は、最新機種の携帯だ。

通話は勿論携帯「電話」のデフォルトとして、電子メールは当然。その上でインターネットにも接続できてセキュリティもばっちり。スケジュール機能はアラームでお知らせするし(「めいぷる!今日は○○の日だよ!」ってね!)、GPSを介したナビゲーションシステムや現在地情報、災害情報、なんと迷子機能までついてる。‥‥いや、迷子にならないっていうかされないのが一番なんだけどね、うん。クマ二郎さんに銜えられて帰るのもちょっと泣きそうだしね‥‥。
まあ、とにもかくにも、僕はおっとりしてるけど最新機種。
ちょっと忘れられやすいけれど、最新機種!なんだよ。
だから、上で言ったような機能は当然のこと。だって最新機種だから。

だ・か・ら・!

「お会計は26ユーロです」
「あの、フランスさん、電子マネーを使って僕がお支払‥‥」
「ああ、現金でお願い」

星だの薔薇だのが飛びそうなウインクをギャルソンのお兄さんにユーロ紙幣と一緒に渡しながら言うフランスさんに、僕は今日も口をつぐんでしまう。
最近はカフェやレストランでも電子マネーが使えるようになってきてて、僕が居れば本当はお財布なんて、現金なんて不要なのに!

「フランスさん‥‥」
「んー?なぁに、もっと食べたかった?あ、最後の一切れあげる。はいカナ、あーん」
「あーん」

そうじゃなくて!‥‥いや、そりゃメイプルシロップがけのガレットはもうちょっと食べたかったけどね充電的な意味で!

そんなことを思いながら(そして美味しいガレットを食べさせてもらいながら)、僕はフランスさんの隣りに座って抱き寄せられつつ、マスターをねめつけたものさ。‥‥ていうか、なんで前にも席はあるのにソファ席で抱っこされてるんだろう?ああ、僕機械だから発熱するし、フランスさん寒がりなのかな?もうちょっと体温上げようかなぁ。ガレット美味しいなぁ。フランスさん、もう一口。

‥‥じゃなくて!

「‥‥もう!フランスさんてば、僕いっつも僕がお支払いできるって言ってるじゃないですか!なんで使ってくれないんですか?!」
「カーナ、クリーム口の端についてるよ。お兄さんとってあげる」
「んむ‥‥。む、んにゃ、フランスさ、そこ口の端じゃなくて口本体‥‥んぅ、」

‥‥なんだか妙にいっぱい舐められて(そんなクリームついてたのかなぁ)、最後になんか「ご馳走様。」とか言われちゃったけど、うん?あれ、最後の一切れ、やっぱりフランスさん食べたかったのかな?‥‥って、ああもう思考が散らばっちゃうなぁ!もう!お尻撫でないでくださいってば!

「‥‥だから!フランスさん現金持ち歩かなくても、僕がお支払いできるんですよ?取扱説明書にも書いてましたよね?」
「あーはいはい、読んでるよ、電子マネー機能でしょ?」
「そうです!」

ちゅ、ちゅ、って僕の顔じゅうにキスしながら器用に喋る(本当に器用だよねぇ‥‥僕がそんなことしたら舌噛んじゃって携帯ショップに修理の為に里帰りしくちゃいけなくなっちゃうよ!)フランスさんに、懸命に抗議する。

だって、僕は最新機種の携帯だ。
電子マネーだって、ほぼ全てのお店で使えるし、チャージだって制限限度額を考慮しつつ自分で積み増しできる。
つまり、僕が居ればフランスさんは、究極的にはお財布は不要なんだ。そりゃ、街角の屋台の花屋さんとかだと、対応してないところだってあるだろうけれどさ。
けど、でも。僕の機能を使ってくれないっていうのは、つまるところ、僕があんまり役に立ってないって、ことで。
フランスさんはいつも「もーカナ手に入れるのにもの凄い倍率だったんだよ!お兄さん頑張った!慣れないネット使って頑張りました!だからご褒美に一緒に寝てねハァハァ!」って言っては僕のことぎゅってしてベッドに入りたがるし(大抵は「充電したいから僕メイプルポット抱っこして寝ます」って断わっちゃうけどね)、だから24時間肌身離さず身につけてくれてるって意味では必要とされてるんだろうとは思うけれど、けど本当は、僕あんまりフランスさんの、役に立ってないんじゃないのかなぁ‥‥。

僕は最新機種だけれど、マスターの要求に対応できてないんなら、携帯端末として、失格なんじゃないかなぁ‥‥。

‥‥って、そんな感じでしょんぼりしてたのがフランスさんにも伝わっちゃったのか(ああ、感情は制御しないと充電が早く切れちゃうのに!)、キスをしてくれてたフランスさんが、苦笑してから、ぎゅって抱き締めてくれた。
いい匂いがする、優しい僕のマスター。

「あのね、別にカナを信頼してないわけじゃないんだよ?」
「‥‥。」
「お前がいろんな機能を持ってるのは知ってるし、俺はお前を買えたこと、凄く幸せだって思ってるよ?」
「‥‥本当ですか?」
「本当。」

力強く頷いてくれた声は凄く真摯で、だから僕は身体から力を抜いた。知らず知らずのうちに、身体が強張ってたみたいで、けれど力を抜いた僕をなんのてらいも為しに支えてくれたフランスさんの腕は、やっぱり力強くて。
そろそろと顔を上げて彼を見れば、にっこりと、花の咲くみたいな笑顔と一緒にキスをくれる。マスターに信頼されてるのが嬉しくて、僕は彼にぎゅっと抱きつく。いい匂い。気分が、落ち着く。細分化されてたデータが並びよく収まっていく感じ。
そうやって、暫く僕のことを抱いて、お尻以外を撫でてくれてたフランスさんが、静かな声で話しかけてくる。

「あのね、カナ」
「はい」
「電子マネーの決済って、あれでしょ。読み取り機に、お前が、キスするんでしょ?」
「はい?‥‥ああ、そうですよ、リーダーさんの種類にもよりますけど。大抵はキスかハグか、握手やハイタッチのところもあるかな、一部のクレジット会社経由の場合は安全にデータを送らないといけないからディープキ‥‥」

「だ か ら だ よ 。」

「‥‥スが、って、はい?」
「だからです。だから電子マネーは駄目。俺は使いたくありません。」
「‥‥だって、僕の一番新しい機能なのに‥‥」

ぎゅうぎゅう抱き締められながら僕はマスターに不平を訴えたけど、フランスさんは断固として聞いてくれなかった。ああもう、だからお尻撫でないでくださいってば。




‥‥会計の差分を席まで持って来てくれたギャルソンのお兄さんがちょっとしょっぱい顔してたけれど、きっと現金なせいで手続きに手間取っちゃったからだよ!もう、だから僕の機能使えばいいのに。

「ああ、おつりはチップでとっておいて。ガレット美味しかったよ」
「はぁ、恐れ入ります‥‥」
「この子、かーわいい携帯でしょ?キミも最新機種にするといいよー。あー‥‥かーわいーい‥‥。」
「‥‥‥‥。」

僕を膝に抱いて撫でながら晴れやかな顔で会話するフランスさんに、やっぱりしょっぱい顔で対応してたお兄さんはきっと暫く機種変更してないんだね。確かに長く使って愛着を持って使ってもらえるのも嬉しいけれど、最近はいい性能の機種がいっぱいあるから、買い換えてくれるとうれしいな!




ああ、でもお尻は撫でなくってもちゃんと機能するから、そこのところだけは勘違いしないでほしいよ。





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