その頃の国境地帯は混沌としていた。
否、はっきりとした国境さえ本当は存在していなかった。
上層で取り交わされた条約や文言など、所詮は上等な羊皮紙に刻まれた装飾のようなものにすぎない。
宗教的、或いは政治的分離を求め、ある者は北へあるものは南へと移動すべく未だ戦火の色濃い街道をひっきりなしに馬車が行き交う。倦み疲れ果てた敗残者もいれば、美しい女達や多くの奴隷を引き従えた男が奪い取った領地へと向かう。新たに生まれた支配者階級と被支配者階級。栄光、栄誉、屈辱、斜陽。軍人、物乞い、盗賊、豪族、商売女。ヒトが、モノが、ありとあらゆるものがそこには存在し、生まれては失われ、また生まれた。
旧大陸の強国から独立を果たした若い国家は、けれど国家というには未だ未成熟のまま各都市の利権や思惑が錯綜し、時に偏見を暴力を排斥を生み、浄化を回帰を変化を求めて彷徨っていた。
誰もが何かを得て、何かを失う時代だった。
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