街道筋の街は活気に溢れていた。
街を睥睨するように、旧宗主国の面影を色濃く残した役所や北を睨む軍の駐屯施設が厳めしく門を構えている傍ら、街を貫く大通りは忙しなく行き交う馬車や人間達に満ちていた。砂埃と怒号が飛び交い、通信所や交易所には新たな商機を狙うギラついた目の商人達がつめかけ、上流の婦人向けのきらびやかなドレスを売る店の陰にはうらぶれた酒場や売春宿が立ち並ぶ。通りを我が物顔で歩くのは軍人くずれのならず者、これ見よがしの武装をした男たち。
その全てを、青年は馬上からゆるりと見渡していた。
美しい鹿毛の馬を慣れた風に操り、並足で通りを行く姿は傍から見れば、やや若すぎる(青年というより、青年の入口にいる少年といった感じだ)容貌や気品のある顔立ちから、縁故か何かでその地位を得た歳若い上級将校とでもいった風情だ。
正式な軍装で武装もしてはいるものの、ともすればその辺りの暴漢にあらぬ因縁をつけられてもおかしくはない姿であったが、しかし彼に対して何ら善からぬ企みを働こうとする人間はいない。

それは、彼が『彼』であるからだ。人々はそれを本能的に知っている。
彼を彼たらしめる為に‥‥『アメリカ合衆国』にする為に。人々は武器を取ったのだから。

アメリカはゆっくりと手綱を操りながら、大通りを進む。
大通りを市街の中央よりやや北寄りまで突っ切れば、この一帯を総括する軍総督府に着く。今日はそこで行われる、国境より北の地に関する軍事会議に出席しなければならないのだ。
北との睨み合いは条約締結後も続いていた。
現段階では大きな諍いに至ってはいない。しかしながら嘗て同じ国を宗主と仰ぎ、同胞と呼び共存していた環境から一変した互いの立場に、一種独特の緊張状態が続いていることは確かで。‥‥先の革命時に、手をとることなく分かれた彼の地との距離を、決めかねているのもまた事実だ。
同じ大陸に住まう同胞として宗主の手綱より我らの手で解放すべしという者もいれば、多くのロイヤリストが流れたかの地領を明確な敵対者として掃討せよという者もいる。あるいは善き隣人として平和的に友好関係を築こうという声などもあった。

どうするべきか、どうしたいのか。

情報は錯綜し、壮絶な痛みをおびただしい血を生命を贄として捧げそうして成し遂げた独立戦争は未だ国内を苛み、ある種の躁状態に陥らせていたが、時は決して待ってはくれない。

決めなければ、ならない。
どうするのかを。‥‥唯一の『兄弟』を、どうするのかを。



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