店内は7割の混み具合、といったところか。
ランクとしては上の下。出入りが制限されるわけではないが、ある程度の地位や財力といったものがなければ利用するには二の足を踏むだろう、そんな雰囲気の場所だ。
給仕は要らないと断り、給仕係からコーヒーがセットされたトレイを受け取る。多めのチップと軍の階級章でとった席は店内でも奥まった場所で、旧宗主国を思わせる豪奢な衝立が置かれ、人の視線と声をある程度遮っていた。
そのことに、一先ず息をつく。
彼を、見せるわけにはいかないから。
もっとも、彼の姿を目にしたところで一瞬では『彼』が『何』であるか、など誰も解りはしないだろう。むしろ、長く眺めれば眺めるほど解らなくなるはずだ。何故といって、そもそも自分たちはごく普通の人間と差異の無い姿だから。‥‥まして、彼は自分の‥‥アメリカの、兄弟だ。
「いいよ、座って」
促せば、彼はごく普通の動作で椅子を引き、腰掛けた。
そのことに、なんとなく安堵する。
理由などわからない。ただ、通りの片隅にひっそりと立っていた彼の腕を引き摺るようにして此処まで連れてきた、その間に一言も喋ろうとはしなかった兄弟が、自分の言葉を聞いてくれていた、それだけで安堵した。‥‥嬉しい、というのが一番近い感情だろうか。彼は、袂をわかった兄弟だ。
トレイからコーヒーを取り上げて机に置き、自らも椅子を引く。
カップを押しやれば、覚えているとおりの、彼らしいおっとりとした仕草で
指先が伸ばされた。それを目の端に捉えながら、アメリカはカップへと口をつける。焙煎された豆の馥郁たる香り。‥‥未だにこの飲み物の美味さは理解できていないけれど、香りだけはいい。
「‥‥飲まないのかい?」
ふと前を見れば、兄弟はカップの縁を指先で緩くなぞり、口を付けた様子はないようだった。ただ、両手の白い指先だけがカップを緩やかに囲い掴むように陶器へと触れ、そのうちの中指が縁を緩く撫でている。
白い、白い指だった。‥‥彼は、こんな指をしていただろうか?
アメリカは、改めて正面に座る兄弟を見つめた。
「‥‥‥‥、君、成長したんだね」
その声に、視線が上がる。潤んだ青灰色の瞳が、アメリカを貫く。
「そうだね。少し、大きくなったよ」
キミが居なくなってから、と。
その言葉に、小さかった彼と過ごした日々を思い出す。
分かれた頃は、まだ彼は本当に小さかった。
成長の速度はそれぞれだから、と急激に大きくなったアメリカとこの兄弟を見比べて、どこか複雑な声で言っていたのは、兄。
君もすぐに大きくなるさ!と快活に言ったのは、自分だったか。
記憶より、少し低い、落ち着いた青年の声。
けれど、どこか懐かしいおっとりとした口調はそのままだと思った。
「‥‥兄弟。会うのは久しぶり、だね」
「そうだね。あの戦争以来だ」
ふわりと笑った、その笑顔が記憶どおりのものだったか、思い出せなかった。
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