カツリ、と陶器の触れ合う音が響いた。嫌な音だ。
兄は礼儀作法にうるさくて、ナイフやフォークの使い方から服装まで、細かく細かく何度も注意を受けた。
家を出る直前の頃には口うるさい兄にほとほとうんざりしていて、顔をあわせては苛ついた態度ばかりとって、困惑したり窘めたりする彼に酷いことばかりを言っていた。その度、顔を顰められたり時には頬を張られたり。そんな毎日。
何故だ、と怒鳴られて。
そんなこともわからないのかい、と怒鳴り返した。
何故解ってくれないのだろうと思っていた。
解ろうとも、しないで。
泣いていた。兄は、泣いていた。
自分が泣かせた。‥‥自分だけが、泣かせられた。彼を。
嫌な音。‥‥それが自分の手の震えによるものだと解ったのは、ずっと後のこと。
「違うよ。僕は君に、似てない」
「‥‥そう、かな」
「うん」
言葉が、喉に絡んだ。固形物でもないものを喉に絡ませるだなんて器用なことをした、とアメリカはぼんやりと考えた。
目の前の兄弟は相変わらずカップの縁を撫でながら、ふんわりとした口調で話している。記憶どおりの口調だ。記憶どおりの、口調の筈だ。
‥‥なのに、何故だろう?何で、なんでこんなにも‥‥
「‥‥なぁ。君、なんでこんなところにいたんだい?」
するりと、言葉が零れた。
そうだ、そもそも何故この兄弟は、こんなところにいるのか。
確かに此処は国境地帯だ。それも酷く曖昧な。実のところ、この街に今現在居る人間の三割、いや四割は、この目の前に座る兄弟の国の人間だろう。そもそもが混ざり合っていたのだ、それがたかだか数年の戦争できっぱり分かれてしまうことなど不可能なこと。
だから、此処に、この兄弟が、カナダが、いても不思議ではないのだけれど。
「‥‥‥‥彼に、何かあったのかい?」
その言葉に、うっすらとカナダは笑った。
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