「言っただろう?さっき。彼はね、僕が『カナダ』のときはすごく優しいんだ。優しくって、可愛いんだよ」
「‥‥え?」
自分と良く似た面差しの兄弟が、笑っている。
くすんだ金の髪、青色の瞳。俺と良く似た、俺の兄弟。
「捨てないで、って縋りついてくるんだ。あの人がだよ?綺麗で強くて、こんなに綺麗なひとはこの世界には他にはいないって、ずっと思ってたあのひとが、僕に縋りついてくるんだ。すっごく可愛いよ。縋りついて、抱きついて、泣きながら僕のことを呼ぶんだ。勿論、抱いてあげてるときも、ね」
笑っている。氷のように冷たく、炎のように激しく。美しい笑み。
「‥‥‥‥カ、ナダ」
「可愛いよ、ずっと泣いてる。ああ、時々君のこと呼ぶときもあるかな?君を思い出してるんだろうね、そういう時は適当に殴ってやればすぐに大人しくなるんだけど。ごめんなさいって、すごく可愛い声で言うんだよ。抱いて揺さぶってる時も、キモチイイって、ずっと泣いてるんだ。キモチイイ、もっと、カナダ。‥‥ね、君は知らないだろう?」
良く似た面差し。幼い頃からずっと、周囲は自分と彼をよく間違えていた。
イギリスさえも、彼をアメリカと間違え彼に「アメリカ」と呼びかけて、
「違うよ」
「今はもう、僕が、君に、似てるんじゃない。」
「君が、僕に、似てるんだ」
兄弟が、笑っている。‥‥俺にはきっと、あの笑い方はできない。
「そうだね‥‥今もやっぱり、君の事を思って時々泣いてるね。僕のこと殴ったりもする。ぽろぽろ涙を零して泣くんだよ」
「‥‥‥‥あ、」
「僕の前で、だ。」
カナダが、するりと立ち上がる。すっかりと成長した彼は、アメリカに良く似ている。似ているのに。
優雅な足取りで卓の脇を周りこみ、椅子に座って呆然とするアメリカの傍へと。
目を、あわす。よく似た面差し。青灰の瞳。俺の、兄弟。
「もう君は、彼の泣き顔は見れないよ。見せてなんてやらない、彼の泣き顔は僕のもの。殴られることなんてなんでもないさ。彼が君に付けられた傷に較べれば、なんでもない。‥‥ねぇ、アメリカ?君が彼に刻んだ傷を、彼はきっと一生忘れないよ?でもね、」
鮮やかに、笑う。
「彼は、彼が僕に刻みつけた傷に、僕が彼に伸ばした腕に。一生縛られるんだよ」
カナダ、と口を動かした。声が出ない。
俺の兄弟、いつもの呼びかけが、出来ない。
「さようなら、アメリカ合衆国」
「‥‥ッ、」
「僕の名前は英領カナダ。あのひとのそばにいるのは君じゃない、僕だ」
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