「な、に、‥‥カナダ、きみ、何を言って」
「何をって?事実を言ってるだけさ」
「そん、そんな、そんなわけないだろうッ、何を言ってるんだ君は!?だって、だってイギリスはいつだって、」
「いつだって?」
‥‥いつだって強かった。美しかった。優しくて強い兄。俺のことを愛して愛して、愛し尽くしてた。
「ああ、そうだねいつだってあのひとは、君が好きだったね。好き過ぎて、よく僕のことも間違ってたよね。‥‥間違って、僕のことを殴っていたよ。『何で出来ないんだ、何でいうことを聞いてくれないんだ』って。そうだね、君は本当に彼のいうことに反抗ばかりしていた。彼が行ってはいけないという森に出かけて怪我をして帰ってきたり、彼がやらなくていいと言った銃の練習をしてた。ねぇ、その度に、あのひとは僕のことをぶっていたよ。何で、何でだって泣きながら」
「‥‥泣き、ながら?」
強いひとだった。美しい兄だった。俺のことを守ってくれて、大事にしてくれて、銃を突きつけた俺の前で、ぼろぼろと泣いた。俺が、泣かせた。
彼の泣き顔を、俺はあの時、初めてみた。
心が飽和する。何で。何で。何故?何が?だって彼は、だって、カナダ、あのひとは、イギリス、は。
「‥‥何で、きみを。きみを、殴ったりって、だってそんな」
「そりゃ、僕が君に似ていたからだよ。決まってるだろう?あのひとが大好きな、『小さな俺の可愛いアメリカ』に僕が似ていたからさ。よく言ってたもの、アメリカは、こんなことしない、こんなことはしない、俺からは離れていかない。ずっと言ってた。言いながら、僕のことを殴って殴って、犯した」
「‥‥ッ!!」
俺のことを愛していた。イギリスは俺を愛してた、俺だけを愛してた。俺だけを愛していて、俺だって彼が大切で、彼のことを、‥‥
「‥‥君の事だって、彼は大切にしてた、はずだ」
「そうだね、君が「いい子」にしてるとき、僕のことをカナダって呼んでくれるときは、可愛がってくれてたね。今もわりとそうかな。僕が『カナダ』のときは、すごく優しいよ。『アメリカ』のときは、殴るわ蹴るわ慣らさないで突っ込むから大流血だわ、大変だね。でも、そんなの昔からだし」
「そんな‥‥」
言葉が、出てこなかった。衝立越しの喧騒さえ遠い。
頭の中に、強く優しかった兄の姿がフラッシュバックする。
優しくて美しくて、ああ、そうだ、疎ましくてたまらなかったのに、いつの日には自分が彼を、守ってやるのだと思っていた。
抱きしめて、愛を囁く日がくるのだと、思っていた。
大好きだった。大切だった。愛していた。‥‥俺は、イギリスのことを愛している。今も、ずっと。
「‥‥俺の、せいなのかい?俺が、彼から独立したから。君を、彼の傍に残して、‥‥そうだよあのとき君を連れて独立してれば‥‥ッ!カナダ、君が、こんな、俺のせいで、」
「ああ、君は本当に、相変わらずだね」
カナダが、笑う。
アメリカに良く似た顔で。良く似た声で。
わからない。これは本当に自分の兄弟なのか。
おっとりとしてのんびり屋で、いつだって俺の傍で、俺の影に隠れてたじゃないか。何故。‥‥何故、笑えるんだい。
あの日イギリスは、泣いていた。泣かせたのは、自分だった。
泣かせられるのは、アメリカだけだと思っていた。
今だって、そうだ、彼は、俺のことが好きな筈、で‥‥
「君は、相変わらずだ」
記憶の中で、イギリスが泣いている。
「君は、まだ自分にあのひとを傷つける権利があると思ってるのかい?」
目の前で、兄弟が笑っている。
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