マシューさんとフランシスは結婚してます。
まっしろい壁と赤いお屋根の、可愛いおうちに住んでいる二人。
兄ちゃんはデザイナーさんかなんかともかく社会人で、マシューさんは学生さんだったのを兄ちゃんとの結婚を機に辞めてます。
馴れ初めは、兄ちゃんがアルイバイト中のマシューを見初めたのがきっかけでした。お洒落なカフェでギャルソンのアルバイトです。‥‥が、妙にぎこちない様子に兄ちゃんが目を留めます。どうやらこのアルバイトはどうしても休まなければならなかった友人の、数日間だけのピンチヒッターな模様。ああどうりで慣れてないわけだ。
でも、可愛い。
もの慣れない動きで、けれど穏やかな笑顔で接客する姿は、とても可愛い。
可愛いものと美しいものが大好きな兄ちゃんは、当然のように可愛くて美しいマシューさんを口説きまました。
「な、俺の家族になんない?」
口説くっていうかもうプロポーズ。第一声からプロポーズ。愛の国のひとだもの。もう口説いて口説いて口説きまくります。
‥‥いいな、と思ったのです。
この子がいいな。傍に置くなら、ずっと傍に置いておくなら、この子がいい。兄ちゃんの直感。
可愛さ、純真さ、無垢な笑顔、心からの献身。安心感。
きっとこの子は、自分を裏切らない。
それからはもう押しの一手です。愛の国の本領発揮です。
さて、そんな押される側のマシューさん。兄ちゃんが見る限りでは、どうやら家族はいないみたいです。特にお金に困っている様子はないけれど、バイトと学校を行き来しながら狭いアパートメントに独り暮らしをしている、よくいる学生さん生活でした。家族については一度それとなく訊いたのですが、少しだけ寂しげに笑っただけで、明確な答えは返りませんでした。後々挙げた結婚式でも、彼の友人はやって来たものの(小柄なアジア美人が「風水的にこれが最高ある。」といって変な形のクリスタルの結晶とパンダのぬいぐるみをくれたり、「これ食べれば幸せになるんだぜ!幸せの起源は俺だから保証付なんだぜ!」と大きな声でしゃべるやっぱりアジア系の青年がキムチを大量に置いていったり、あとドレッドにヒゲのデカイおっさんがバケツアイスにリボンぐるぐる巻きにして持ってきたのには兄ちゃんも驚きました)最後まで身内、という人物は現れませんでした。
でもまあ、天涯孤独なんてよくあるとまでは言わないものの、そう不思議でもないし。自分だって親の顔なんてもう忘れちゃったよーどっかには生きてると思うけど、事情は人それぞれ、お兄さんその辺つっこまないから安心して!
マシューさんはとても可愛いです。
最初知り合った頃は、少し触れただけで身体を震わせて、ちょっとでも手をだそうとすれば涙目になってフリーズするようなひとでした。そういうのも兄ちゃんにとってはとても新鮮。だって周りに居なかったし、そういうの。ありえないくらいに可愛くて、だからこそ落とし甲斐というか、次第に笑ってくるようになったり、触れさせた指先に身体を一瞬強張らせてから、そっと身体を寄せてきてくれたり、そういうのが楽しくてならなかったのです。
「可愛いね、マシュー」
「お前にとびきりの愛をあげる」
「お前の傍にいると安心するんだ」
「傍に居たいな」
「愛してる、マシュー、傍に居てくれ」
こまめに会いに行って、愛を囁いて、デートを重ねて、プレゼントをたくさんして、抱き締めてキスもえっちもして、そして再度、プロポーズ。愛してる、結婚してくれ。
「あなたが、僕の家族に、なってくれるんですね。‥‥傍に、居たい」
薬指に填めてあげた指輪を大切そうに握り締め、ぽろぽろと涙を零して笑ったマシューさんをぎゅっと抱き締めた兄ちゃん。そうです、念願叶って、マシューさんと結婚できたのです!おめでとうおめでとう。
ある意味、ここが兄ちゃん的にはゴールでした。
‥‥そして、ゴールしたならまた新たなスタートラインに立ちたがるのも、これまた兄ちゃん。ちょうマダオな兄ちゃん。
まぁ、ようするに浮気っぽいんです。
セックスアピール抜群のルックスでそこそこお金も持ってて当たり前にセンスも良くって会話も巧くってなにより恋愛大好き。男女問わずえっちも好き、しかも巧い。これで浮気しないほうがおかしい。
友人で仕事仲間のアントーニョさん(スペイン親分)は呆れ顔で兄ちゃんを窘めます。
「自分なぁ、結婚したんやしいい加減落ち着き。可哀相やん、あのコ」
「んー、マシューは可愛いけど、愛が俺を呼んでるわけよ」
お前と違って。因みに親分はちーっちゃい頃から大事に一途に大切に宝物のように育ててきた(ちょ、親分‥‥w)ロヴィーノと結婚してちょうラブラブ生活をずーっとずーっと満喫中なひとです。兄ちゃんとマシューさんのおうちとも、わりとご近所距離。
ちなみにロヴィーノは時々フラワーアレンジのお仕事をやっていますが基本はおうちにずっといるひとです。親分と兄ちゃんが仲良いせいもあり、マシューさんとも、どうやらそこそこ仲良しさん。
まぁともかく、兄ちゃんの浮気は留まるところを知りません。文字どおりのとっかえひっかえ、ときどき休憩。けれど、相手もちゃんと選んでいて慰謝料がどうの結婚がどうのと言い出さない相手を選んでいるつもりでした。実際大半は綺麗にお付き合いして綺麗にお別れ、ときどき失敗。けどそれも何とか乗り切って。デートしてえっちして時々貢がせて、ロマンチックとドラマチックを満喫して、お別れ。の、繰り返し。
けれど兄ちゃん、マシューさんのことも心底愛しています。本当に。
まっしろい壁と赤いお屋根のおうちに戻れば、いつだって可愛いマシューさんがいる安心感。そう、兄ちゃんがマシューさんに求めていたのは安心感と、居場所。
「おかえりなさい」
「疲れてませんか?」
「ご飯食べますか?今日頑張ってフランス料理作ってみたんです」
「綺麗な薔薇が咲いたから、ロヴィーノさんに頼んでブーケにしてもらったんです、可愛いでしょう。あなたに見せたくて」
「フランシスさん、大好き。傍に居てね」
こういうのは、お家ならではです。家族ならでは。外に何人もいるセフレや浮気相手では、こういう会話は出来ないし、しない。こういう会話が出来るのは、マシューだけなのです。
傍に居てねといわれてフランシスが嬉しいのは、この子だけ。
ずっと自分が傍に居たいのは、この子の傍だけ。
自分が帰って来る場所はこの子の傍なんだと、その甘い身体を抱いて、噛み締めるわけです。
マシューが、どう思ってるかなんて知りもしないで。
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