で、翌日です。朝です。
降り注ぐ朝の光にうっそりと瞼を上げたことで、兄ちゃんは自分が眠っていたことを知ります。
身体が痛い。というか、床がゴツゴツしててすごく痛い。腕とか、顔とかピリピリする。‥‥何をしていたんだっけ?自分は、何をしたんだっけ‥‥?
「‥‥ッマシュー!?」
一気に覚醒します。身体が妙に痛いのは硬い床で寝ていたせいもありますが、それ以上にパートナーを腕力に任せて押し倒したこと、そして全力で拒否されたのを無理やり抑えつけて事に及んだこと。見下ろした自分の腕には無数の引っ掻き傷。きっとピリピリする顔もそうなのだろう。それら身体が痛む要因をフラッシュバックのように思い出して、フランシスはバッと身体を起こしました。
朝日に照らされたリビングは、それは酷い有り様でした。殆ど格闘めいた鬩ぎあいの、フランシスの暴力の(‥‥殴ったり蹴ったりではなく。兄ちゃんはそういう暴力はどういう状況でもマシューに対しては絶対にふるわないので、要するに性的な其れという意味で)証拠とでもいうように家具が散乱しています。二人で買いに行って、悩みに悩んで漸く買ったお気に入りのソファセット、上に置いていたクッションは部屋の隅に投げられて、テーブルの上に置いていたレースの敷物は(これは結婚祝いにとヴァルガス兄弟がくれた手編みのレース)無残にも破れて、床にわだかまっています。淡いベイビーブルーのレースは、濁った白と赤に汚されていました。床は、それ以上に、乾いた精液と血液に汚れていました。
擦りきれたベルト、ああこれデザイナーズの一点物で高かったのに。縁には血液と、巻き込まれた髪の毛が絡まっている。ああそうだ、腕を縛ってたんだった、だって、あんまりに暴れるから。だって、強情に、俺を拒絶するから。無理やりに口淫させた後うるさいからと口に突っ込んだポケットチーフ。破れた、否、俺が破いたシャツの切れ端、はじけとんだボタン、体液でグシャグシャになったジーンズは、マシューのものだ。
そう、昨日の昼に着ていたんだっけ、あの誰とも知らない男の腕の中にいた、マシューが。
「マシュー‥‥?」
そっと、口に出した名前。小さな小さな声で。
呼べば返事があると、昨日までは欠片も疑わなかった名前を。
返されない声を、ただひたすら待った。
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