マシューの姿はどこにもありませんでした。
家中を探して、家に居ないことがわかればご近所を探しました。なんというご近所迷惑‥‥ではなくて、兄ちゃんは必死です。だって、こんなこと思ってもなかった。

だって、傍に居てくれと言った。
だって、傍に居たいと言ってくれた。

まっしろい壁と赤いお屋根の小さなお家で、ずっとずっと一緒に住もうねと誓ったのだ。家族になってくれと、家族なんだと信じて、‥‥信じきっていたところに。


ああ、自分はマシューに、捨てられたのだ。


それに気づいた兄ちゃんは、呆然と立ち尽くしました。

「ちょ、おいフランシス?!しっかりしいや、なぁ、‥‥おいってば!」

肩を揺さぶるのは親分です。そして此処は親分のお家。ご近所さんでは一番の仲良しですし、朝っぱらから駆け込んだところで迷惑云々をいう相手でもないし。呆然とした兄ちゃんは、呆然としたまま聞かれるままに、親分に経緯を話しました。

親分は親分で、あんまりな親友の姿に狼狽していました。
確かにフランシスは、浮気っぽいところもあるしもうあれは悪癖通り越して病気だとも思うけれど。けれど、親分にとっては彼は大事な親友なのです。仕事仲間で、幼馴染みで、悪友で、親友。いいところも悪いところも知り尽くしているし、だからこそ、この意外に寂しがり屋の親友が、あの可愛い、どこか安心するようなあの子を伴侶に選んだと知ったときは、本当に喜んだのです。

浮気を繰り返すのは、自分の居場所が欲しいから。
自分は必要とされていると、実感したいから。

昔から、そうだったのです。どうしてかは、正確なところは親分も知りません。ただ、彼の両親はどうしようもないほど不仲でした。よくあるといえば、よくあることだったのかもしれません。でも、幼馴染みで小さな頃からよく一緒に居た親分は、彼の親を見るたびその冷えた醜い視線にぞっとしたのを覚えていました。そして、そのたび幼馴染みが、綺麗に笑うのを。
まるで醜いものに対抗する唯一の手段だとでも言わんばかりに、美しく笑うのを。‥‥家を、捨てたのを。覚えていました。
俺は世界の恋人なのよ。なんて。
軽やかに笑って度を越した恋愛を重ねる幼馴染みに、思うところがなかったわけではありません。だって、あんまりにおかしい。けれど、仲が悪いよりは、仲良しをたくさん作るほうがいいんと違うやろか。そう思って、笑ったり泣いたりしながら恋だ愛だと繰り返す幼馴染みを、見守ってきました。コイツが、寂しくないならばと。だからこそ親分はフランシスのどうしようもない自堕落さにあまり厳しいことは言わなかったし、度を過ぎたところで窘めればええわーくらいに思っていたのです。そして彼が選んだ結婚相手はあのとおり、きっと時間が経てばフランシスも落ち着くだろうと思わせる、優しそうなマシューだったし。

あのコなら大丈夫なんやないやろか。きっと、フランシスも、大丈夫になるんやないやろか。家を持って、家庭を持って。そして、幸せに。

なので親分としては、こんな風に親友を傷つけた、マシューのほうをこそ許せない気分になっていました。
因みに昨日昼間の一幕は仕事場の近くだったので親分の耳にも入っていました。
あの美人をお持ち帰りするところにも居合わせていたし、ついでにあの日からこちら家にも帰らず束の間の恋愛をフランシスが堪能中なのも知っていました。けれど、仕事に影響が出ない限りはええわーくらいに考えていて、どうせすぐに飽きてあのかぁええ誠実なコのところに帰るんやろ、くらいに。事実、これまでずっとそうだったから。
だから、驚いたのです。フランシスが路上で派手にフラれてた、みたいな伝聞に。
しかもなんか金持ちっぽいいけ好かん(この辺は親分の主観)に掻っ攫われたなんて、信じられないことでした。さらにはそのフッた相手が、マシューときたもんだ。あのかぁええコ。幸せそうに笑って、幸せそうに笑う親友に寄り添って立っていたあのコが。なんて酷い、酷いことをコイツにしてくれたんだ。
なので、こんな風に打ちひしがれたフランシスの姿に、姿を消したマシューのことを詰りたい気分になっていたのです、が。

思わぬところから、思わぬ制裁がかッ飛んできました。



→07
→index