何がどうしてこうなったんだろう。
アメリカは真摯に自問する。
今日は、別段悪い日ではなかった筈だ。
むしろ良い日だったと断言してもいいだろう。とりわけこの数日は。
少し早めのバカンスだと快活に笑った上司は、自らは忙しいくせアメリカを気遣ってくれて、航空機のチケットや滞在先の手配まで万事済ませてくれて。
「いってらっしゃい」と送り出してくれたのは以前ファーストレディとしてアメリカに優しかった(‥‥浮気っぽい夫には厳しかったようだが)聡明な女性。
滞在先は国内、気候も穏やかな西海岸。バカンスシーズン特有の焼けつくような太陽や開放的な空気の代わり、どこか安穏とした雰囲気に冒険好きなアメリカとしては物足りない気分も若干したけれど、ここ一年の激動ともいえる情勢の推移に知らず疲弊していたらしい身には合っていたらしい。のんびりと海岸沿いを散歩したり、パブで知り合った若者達と酒やサーフィンや女、他にもいろいろなことについて話し込んでみたり、開放的で友好的な女性達と、火遊びにも満たない可愛くて紳士的な交流をしてみたり。
そう、わくわくするようなスリルはないけれどほっとする、そんなバカンスらしいバカンスを過ごしていたはずだ。
なのにどうして何がこうなって?
アメリカは降りしきる熱いシャワーに全裸の身体を打たれながら、自問する。
シャワーは好きだ。気持ちがいい。東洋の友人宅がたまに招待してくれるオンセンもなかなか良いのだけれど、やっぱり強い熱の奔流に身体を叩かれるように流されるこちらのほうが自分にはあっている気がする。もう少し歳を経ればオンセンの静けさも好きになるのかもしれないけれど。
とりわけ今日は汗をかいたし、久々にしたテニスも楽しかった。相手が彼女だったぶん勿論手加減はしたけれど、おっとりしているワリにさすがテニス発祥の地の彼が母親代わりだったからというべきか(‥‥まぁそれは自分もなのだが)、意外なほどに駆け引きも巧い彼女との対戦はそこそこに白熱したし、スポーツで一日を終えるというのはとてもバカンスらしい気もする。
‥‥そういえば東洋の友人の上司は、テニスコートで恋に落ちたなんて逸話があるらしい。ロマンですねぇ、いつもながらの笑顔で言っていた彼だけれど、彼もそういう恋をしたことがあるのだろうか?
‥‥自分にもそんな、ロマンチックな恋が訪れるのだろうか?
「ああ、違う」
アメリカは自身の思考に思わず口に出して反論した。
そう、違う。自分は既に、深い深い、そして熱い恋に、落ちている。
けれど今日のコレは予定外だ。想定外だ。そもそも恋云々とはとっぱずれている。
頭上から降りしきる熱い雫。さすが上司私有の別荘というべきか、シャワーブースは広々として清潔で、非常に使いやすい。
広大な外洋を髣髴とさせるマリンブルーのタイル、鮮やかな空に浮かぶ綿雲を思わせる、白い目地。複雑なカーブで構成された二つはそれ自体が絵画のように、シャワーブース、そしてガラス張りのドアの向こうに広々と広がるバスルームを飾り、ふんわりとしたコロニアル調の別荘にあってどこか若々しい、心浮き立つ雰囲気をまとっていた。‥‥そう、心も浮き立つ。むしろ天高くすっ飛びそうな勢いで遊覧飛行中だ。ジェット気流に乗って。
いやいやいや、いや。落ち着け俺。落ち着け俺。おちけつオレ。
アメリカは真摯に、必死に、自分へと言い聞かせる。思考においてまで噛んでしまうほど動揺していることなど認めない。断じて。
「アメリカぁ、ボディソープそっちにある?こっちないんだ、ちょっと分け‥‥」
「ひゃふぅぉ?!」
‥‥突拍子もない声を上げてしまったことは、認めざるを得なかった。
美しいタイルを叩く水音にかき消されたのか、綺麗に磨かれたガラス扉を開く音は欠片もアメリカには聴こえなかったのだが、現実に振り返った先のガラス扉が僅かに開いているわけだから、数瞬前にこのドアは開けられたのだろう。自分以外によって。
‥‥正確にいうならば、にゅっとその隙間から差し入れられている、ほっそりと可愛らしい腕によって。
「‥‥アメリカ?ごめん、驚かせたかな、ソープ使ってたの?でもこっちないから、」
「なななななななんでもなっ、ないんだぞ?!いいよコレ使って!!はい!!」
「‥‥‥‥ねぇこれシャンプーなんだけど」
「ごめんちょっと間違えただけだよ!べっ、別に動揺なんてしてないんだからな?!」
「うん?ありがと」
アメリカの言葉と手渡したボディソープへのリアクションは、おっとりとした可愛らしい声でのお礼と、引っ込められた白い指先。
熱い湯にうたれてほんのりと薔薇色に上気した、ほっそりとした白い指は、現在アメリカがいるシャワーブースのすぐ隣へと、引き戻されて。
「‥‥あ、これいい匂いだねぇ。キミのところの上司の趣味なのかな。彼も彼の奥さんも、趣味がいいよね」
「‥‥‥‥そうかもしれないね」
匂いなんて全然わかんないけど。
アメリカは言葉にはしなかった返答を降り注ぐシャワーと一緒に流した。
パシャパシャと、熱い湯がタイルを撃ち抜く勢いで降り注いでいる。唱和するシャワーの音は二つ。アメリカのいるブースと、美しい、絶妙のスモークガラスの向こう、と。
「スポーツの後のシャワーってやっぱりいいなぁ」
「‥‥‥‥‥‥そうだね」
「気持ちいい、もっと、って思わない?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥言われてみたいよね」
「へ?だから、言ってるんだけど」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥うん、そうだね」
ね、気持ちいい、なんて可愛い声は隣のシャワーブースから。
バスルーム自体の構造に微かに反響してどこか甘く強請っているようにさえ聴こえる愛しく可愛い声に、アメリカは真摯に、必死に、切羽詰りながら応える。応えて、そして考えて、‥‥視線を、スモークガラス越しの姿へと、向ける。
自分より少し低い位置にある小さな頭、細く繊細な指先が掻き上げ纏めている髪は見慣れたハニーカラーより少し濃い気がする。少し仰のいた頤、ほっそりとした首筋、絶妙の曲線の背筋、そしてふんわりと丸みをおびたヒップ、食いつきたい太もも、締まったふくらはぎと足首、足先を経由してまっすぐな向こう脛と形の良い膝、やっぱりしゃぶりたい太もも、‥‥ヘアはどんな手入れしてるんだろ、何色だろ、薄いくせふっくりとしてそうな腹と、‥‥ツンと上向いた、ガラス越しにもたっぷりとした質感がありありと判る、おっぱい。
スモーク越しにもくっきりはっきり、見事なプロポーション。
アメリカは凝視した。凝視した。二度でも三度でも言いたくなるくらいには凝視した。
降りしきるシャワーの熱い奔流に和んだり憩ったりしている場合ではないと脳内の自分が机をひっくり返す勢いで主張している。これが東洋の友人言うところのホシイッテツガエシ、なのか?いや机の上には食事は乗っていない気がする。ご飯は大事だとも。イギリス料理だったらわからないけれど。
さわさわと、ほっそりとした腕が繊細な身体に絡みつくようにして滑らされている。ボディソープ。‥‥手のひらで洗うのかなぁ、そういえば深夜のショッピングチャンネルで「ボディタオルは肌を傷つけるので手のひらで撫でるように洗いましょう」なんて綺麗な女性が言っていた。たしかエステティック関連商品の販売員。うん、おっぱいが大きかったからつい見てしまってて覚えてる。
こう、ヌルヌルとした白い液状のソープが、彼女の身体に絡み付いて、それをふっくらした真っ白の彼女の手のひらが身体に塗りこめるように撫でさすり、首筋とか腕とかを綺麗に洗って、ぷるっぷるのおっぱいを丹念に、入念に、ぷっくり立った先っぽまで洗って、それから、ぽってりしたお尻とか、ビキニラインを丹念に指先でまさぐるようにして、勿論、もっと奥の、柔らかなヘアに守られた、ぱっくりといやらしい、割れ目に‥‥
「アメリカ?」
「そこに指入れていい相手って俺だけだよね?!」
「は?」
キキュ、とコックを捻る音とともに、バスルーム全体に反響していたシャワー音が正しく半減する。
ハッと我に返ったアメリカは降りしきるシャワーをものともせずに頭を上げた。‥‥妄想、もとい、想像に耽っているうちに俯いてしまっていたらしい。‥‥俺の馬鹿野郎、もっと目に焼き付けるくらいに見ておけよ!!
しかし視線をスモークガラス越しに向けたときには、既に其処にはほっそりとした姿はなく。
「先にあがるね、アメリカもあんまり長く使ってると湯あたりするよ?」
パタン、ペタペタペタ。
シャワーブースの開閉音、続く軽やかな足音は水気を帯びた素足らしい、妙に可愛らしい音で遠ざかっていく。
「‥‥うん、わかったよ、カナダ」
どこか茫洋とした声は、既にバスルームをあとにしたカナダの耳にはおそらく届かなかったことだろう。
‥‥何故こんなことに。何故、こんな状況に。
アメリカが真摯に、必死に、これでもかと自問した結果‥‥か、どうかは解らない。
ただ、今ひとつだけ確実に解っていることは。
「‥‥‥‥‥‥‥‥2回くらい抜けば、おさまるかなぁ‥‥」
タイルを撃ち抜く勢いで降り注ぐシャワーなどどこ吹く風と、太く雄雄しく天を突く分身を、手のひらで握りこみ、一人処理しなければこのブースからは出られない、ということだけだ。
果たしてオカズには事欠かないことが救いなのか絶望なのか。
あっという間にマリンブルーのタイルに吐き出された白濁を見つつぼんやりとため息をついたり、やっぱり一回じゃ無理だった高ぶりに情けなくなったり、別に俺は早撃ちなわけじゃないぞ断じて違う若いから回数はこなせるんだぞカナダ相手なら6回くらい軽くイケるんだからなと誰にともなく言い訳してみたりと、今回のバカンスである意味最も思考と手のひらをフル回転させた、アメリカのバスルームでのひと時であった。
アメリカはぼんやりとベンチに座って風を浴びていた。
微風に調整したファンは火照った‥‥いや、別の意味の熱は既に抜いてきたのだが、ともかく身体を心地よく宥めてくれるようで、アメリカは深く深く、息をついたものだ。
ふはぁ、と吐き出した息は、腰から膝下までを覆っている厚手のバスタオルに零れて落ちる。膝を開いて腰掛けた腿の上に二の腕を乗せ、緩く前屈み。自然風に似せるよう、強くなったり弱くなったりを繰り返すファンの風には未だ重く水を吸ったままの金髪は反応せず、ただ時折滴り落ちる雫が微かに風に吹かれて軌道を変えて、首にかけたタオルに着地していた。本当の自然の夜風も混じって、気持ちが良い。
シャワーブースの設置されたバスルームは、そのまま外へと続くデッキに大きな開放窓から出ることが出来る。
この別荘はさすがに上司の所有物というだけあって、遊び心に溢れたコンパクトだが立派な母屋とゲストルームが揃った離れ、それにバーベキューなどが出来る設備の整ったデッキのほか、こうしてバスの横にもリラクゼーションスペースとしてのオープンデッキが設えられていた。当然、外とは言っても全て私有のテニスコートありプールありの贅沢な庭であり、隣家(そこもやはり別荘で、管理人夫婦が昼の間だけ手入れをしているようだ)からも、路地からも決して見えることのないし隠し撮りもしようがない、仮に素っ裸でいたところで平気な場所だ。個人的な慎みの問題で、隠すべきところは隠しているが。
既に夜は更けている。都市全体に環境衛生規制と照明規制が布かれているせいもあって、スモッグにも人口の光にも邪魔されない空に瞬く星は、まるで今にも降り注いできそうなほどにくっきりと鮮やかだ。
そして、静かだ。
喜びも悲しみも、快楽も、怒りでさえ呑み込み、昇華し、ただ静かに在り続ける世界。
その大自然の静けさと深さに、アメリカはシャワーブースでの己の生理的な所業を含めた劣情を浄化される気分がした。
そう、劣情だ。‥‥片恋相手への。
今この時も同じ屋根の下で憩っているのだろう、可愛い、愛しい、カナダへの。
そもそも先ほど熱い雫に打たれ、且つガラス一枚向こうの裸体に煩悶というか悶々としつつ繰り返し自問していた「何がどうしてこうなったのか」、という問いについては、実のところ単純明快な自答ができる。
曰く、『兄弟のバカンスを聞きつけたカナダが、休日を利用して遊びに来たから』。
メインストリートからは少し外れた道を、のんびりとした足取りで散歩していたアメリカの姿に(‥‥適当に可愛い女の子をナンパして目に優しいブランチにしようかなと考えていたことは、彼女には絶対に秘密である)、ほんわりとまるで花のように笑ってから、クラシカルなサマースタイルのワンピースの裾をフワリと翻して駆け寄り、そしてぎゅっと抱きついてきた彼女の、軽くて甘くてほっそりとした身体を呆然としつつもしっかりと抱きとめたのは、今日の午前も早い時間。
バカンス中っていうから、驚かせようと思って。
そうな風に、いつだってアメリカには甘く聴こえる声でほんわかと言った彼女は、アメリカの腕の中でほんの少しだけイタズラっぽく笑ったものだ。
キュート過ぎる笑顔と、ふにっと押し付けられて深くなったデコルテから見えるスペシャル過ぎる胸の谷間にアメリカが見入ったのはいうまでもない。
およそ3週間のバカンスの間、掃除については5日に一度クリーニングに来てもらうことになっている。それも昼間のことで、グレートマザーと呼ぶに相応しい気風も恰幅も良い中年の婦人が、じゃあ今日は離れのゲストルームを一室整えておきましょう、と笑ってくれたのが、今日の正午頃。
それから予定より少し遅れて目にも心にも優しく楽しくなったランチをストリート沿いのレストランでしっかりと摂った後は、子どもは外で遊んでらっしゃいとカラカラと笑うマザーの言に従って、普段どおりの気の置けない会話とセットで庭に一面設けられていたテニスコートでテニスに興じた。プールという手もあったのだが、水着はさすがに持ってきてないという彼女の言葉に引いたのだ。‥‥もう少し暑い時期であれば、素敵過ぎる水着姿が見れたのかと思うともの凄く惜しいわけだが。
そして今、夜も更け。
この別荘にいるのはアメリカを除けば、彼女ただ一人である。
彼女に、想いは告げていない。
大事にしたいという思いがあった。
彼女に好かれたい、そしてこの想いを成就させるための努力を重ねて、その上で、慎重に時期を計りたい、とも考えていた。‥‥同時にこの恋が、成就されないまま終わりを迎えることを、恐れてもいた。考えたくもないことだけれど。
努力はしても叶えられないことがあるなんて、未だ兄気取りのイギリスやフランス達に子ども呼ばわりされていようと、知っているのだ。確かに自分は若いけれども、もう子どもではない。何かを無邪気に信じ、恐れることなく手を伸ばせる時代はとうに過ぎてしまった。心も、身体も。
深い夜の空気に宥められた熱は、未だ身体の中に燻っている。‥‥当たり前だ、自分はもう身体も十分に成長した、健康で、ごくごく一般的な若い男なのである。
勿論彼女も同じように、しっかりとたっぷりとぷるっぷると‥‥いや、どこがとは言わないけれど、なんだかもう無闇やたらに美味しそ‥‥いやいや、立派に美しく発育した、若い、それもとびきり可愛い、女性なのだ。
‥‥なのにとうのカナダときたら、無邪気に俺に笑いかけたり(可愛すぎる)、抱きついてきたり(‥‥気持ちよすぎる主におっぱいが)、パジャマ姿のまま目の前をほてほて歩いていったり(あのとき絶対、ブラつけてなかったよな?!先、先っぽ透けて見え‥‥ッ)、酔っ払ってはとろんとした目ですりすりと擦り寄ってきたり(日本がくれたゲームだったら後は「体位とローションの味とオモチャを選んでねv」とかそんな選択肢しかでてこないぞ‥‥!)、もうともかく。
「ヤりたい‥‥」
「何を?」
「ふぎゅぉああぅあ!?」
‥‥突拍子もないを通り越した声を上げたことは、認めざるを得なかった。
アメリカは優れた運動神経云々をこれまた通り越した動きでズザァ!とベンチの端へと移動した。ベンチから落ちなかった自分を褒めてやりたいくらいだとさえ思った。
移動というか、退避というか、回避というか。‥‥しなきゃよかったのにこのヘタレ、と脳内の自分が軽蔑しきった目で机をコツコツ叩きながら吐き捨てている。何だよ、俺の分際で態度が生意気だぞ!いや俺だけど。
そして彼の(?)言うことは、正しいのだけれど。
あんまりな声と不自然すぎる動きに、彼女の身体がフリーズしている。
それはベンチの後ろから。おそらくアメリカの肩に手をかけて、もしかしたら背中から抱きついてくるつもりだったのかもしれない、そんな感じの、胸の前まで上げられた片手。
‥‥ふかふかぷるぷるの感触獲得ならずに、惜しいのか暴走(いろんな部分が!)回避グッジョブ俺の運動神経!なのか、よく解らない鬩ぎ合いを脳内で展開しつつ、けれどアメリカはどうにかこうにか気力で体裁を整えた笑みを、きょうだいであり、片恋相手でもあるカナダへと向けたものだ。
伊達に長期間、片想いはしていない。こんな風にポーズをつけるなんてお手の物なのだ。‥‥できれば手のひらから投げ捨てたい、ポーズだけれども。
出来ない臆病な俺、なのだけれども。
アメリカは自嘲する。
だがしかし、そんなしんみりした思いに浸れたのは一瞬であった。
本当に一瞬であった。
「ちょ、え、うぁ、な、‥‥んで君ッ、服着てないんだい?!」
「え?だって暑いから。」
このままパジャマ着たら汗がついちゃうもの。
そう、朗らかに言ってカナダは笑った。眩いばかりの裸体に、柔らかなバスタオル一枚纏った姿で。
彼女の笑みはいつものように、ほんわりおっとりとした、アメリカも大好きな笑顔である。
この笑顔を向けられれば、たとえばイギリスは本来の彼らしい、穏やかで和やかな兄というより母親の顔で笑うし、フランスに至っては滴るような色気を乗せた笑顔で彼女を抱き締めようとする。‥‥後者の場合は即座に飛んで言って肩を引っつかんで自らの腕の中に彼女を引き戻すのだが。
「ぅえ、あ、暑いからって、ねえ‥‥ッ!」
「なによアメリカだってバスタオルだけじゃない。なのに私は駄目なの?自分だけずるいよ」
ずるいとかずるくないとかそういう問題じゃないよ襲われたいのかい俺に?!
‥‥と、言えるようならばアメリカは今の曖昧で優しい、そしてじれったい関係には陥っていなかっただろう。アメリカがベンチの端まで移動したぶん開いた場所に、カナダはそのほっそりとした身体を滑り込ませて、暑いとかなんとか呟きつつ片手でぱたぱたと己を扇いでいる。
何が一体どうしてこうなって。
アメリカは真摯に、必死に、このうえもなく生真面目に、自問する。
シャワーに打たれていたときとは違って、クリアな視界に好きな相手の素敵過ぎるセミヌードを拝みながら。
綺麗にロールアップされた長い巻き毛は、既に乾かされていた。
うなじや額の際からいくばくかの髪がほろりと零れ、ファンと夜風に煽られて白く滑らかな首筋をくすぐっている。小さな頭、華奢な肩はむき出しで、手扇子で頬を扇ぐアクションに合わせてバスタオルにくるまれた大きなおっぱいがぷるぷると揺れていた。扇ぐ手のひらの先には熱を持ってふっくらと潤んでいる、少し開けられた唇。きっと貪ればさぞや甘いのだろう。胸から下は厚手のバスタオルにきっちりと包み込まれてもう片方の腕で押さえられている。‥‥引っ張れば容易に剥ぐことが出来る、その下には数え切れないほどに夢想してきた彼女の、甘く柔らかく、エロティックで優美なヌードがある、わけで。
‥‥見たい。触りたい。抱き締めて、くちづけし、唇で下で指先で全身で、全てを暴いて、甘い喘ぎを、キツイ締めつけを、味わい、貪りたい!
愛したい、愛されたい!
けれどそれが出来るのは、していいのは、『恋人』だけなのだ。
アメリカはまだカナダの恋人ではなく、どころかカナダに意中の相手が居るのかどうかさえ、聴くことも出来ていない。
カナダはアメリカに、優しく笑いかける。バカンス中に遊びに来て、無防備な姿で隣に座る。けれどそれは、イギリスやフランスに同じことをしない、していないと、言えるだろうか?解らない、アメリカは彼女の傍に四六時中いることは許されていないし出来ない。
この現状の本当の意味を知っているのは、彼女だけなのだ。
ふ、とアメリカはため息をついて、空を見上げた。
瞬く星は先ほどと変わらず美しく鮮やかで、深く静かだ。
そう、静かに、自分は彼女に接するべきだと。諭すかのごとくに。
‥‥そうとも、自分達には時間がある。
彼女に好きな相手が居るかどうかは知らないし、解らない。けれどその相手が、必ずしも彼女と同じ時間を生きる相手であるとは、限らない。
アメリカには、時間がある。彼女を待てるだけの、時間が。
彼女に寄り添い、全ての思い出を共有できるだけの同じ時間軸が。
(‥‥だから。だから彼女が、自分を好きになってくれるまで、)
「‥‥アメリカ」
「え?」
隣から掛けられた小さな声に、束の間思考の縁へと落とし込んでいたアメリカの心が現実へと帰還する。
微風設定のファン、鮮やかで深く静かな星空、先ほどまでと変わらない。
勿論、並び合ってベンチに腰掛けている、セミヌードの片想いの相手も。
変わらない、ように見えて、‥‥けれど少しだけ、違うのは。
「ああ、ごめんどうかしたかい?」
「‥‥ううん」
なんでもない、と言った彼女が、その言葉に合わせてフイと目を逸らした。
そのアクションに、彼女が自分のほうへと視線を向けてきたのだとアメリカは改めて気がつく。
ウォータリーカラーの美しい瞳。ハニーゴールドの睫に縁取られて、今は少し俯き加減に。白く華奢な女の子らしい手は豊かな胸元を押さえるようにして組まれている。柔らかそうな胸。
‥‥ああ、いつか自分はあのおっぱいに触れるのかな?触って、揉んで、恥ずかしそうに可愛い声を上げる彼女の潤んだ瞳に微笑みかけて、可愛らしく甘そうな先端を吸い上げて‥‥
「‥‥アメリカ、髪拭いてないでしょ。拭いてあげる」
「え、」
「駄目だよ、ちゃんと乾かさないと、風邪引いちゃうんだから」
「えぁ、ちょ」
ふに、と柔らかな感触が腰に巻いたタオル越しに、伝わってきた。
感触だけじゃない。その感触が伴っている、体温も。
スルリと首にかけていたタオルが白い手のひらに持っていかれる。パサリ、軽やかで乾いた音は彼女の裸体を覆うバスタオルの衣擦れ、頭にそっと触れてくるドライ用のタオルの感触。‥‥それから。
「‥‥‥ッ!!!!」
‥‥何がどうして、こうなって。
アメリカは真摯に、必死に、もう涙とか鼻血とかその他口に出すには憚られるいろんなものが出そうな衝動に駆られつつ、自問する。そして自答。
曰く、『カナダが自分の膝の上に跨る格好で、髪を拭いてくれているから』!
ぷるぷると、素敵なおっぱいが至近距離で、文字どおりの眼前で、揺れている。
勿論バスタオルにきっちり包まれてはいるけれど、それが何ほどのことか。
先端の形まで解るぷるぷるとした質感、量感、指を差し入れたらさぞや温かくキツイのだろう深い谷間。サイズはどれくらいだろうか、この前通販で買ったエロDVD(巨乳系旅先の開放感でいつもよりずっと凄いことしてあげちゃうゾ☆編)の女優と同じくらい?いやアレよりずっとたっぷりとある気がする。しかも上向きにぷるんと立ってるのまでありありと判る。くびれた腰は細く、当然男の足を跨いで膝立ちしているのだから足は開かれているわけで、バスタオルの裾は乱れてはいなかったけれど、かなり際どいラインまで、めくれあがっていて。そこから足先まで、何もかもが‥‥あでやかで。
真っ白な腕が、アメリカの頭を抱き込むように回され、髪を拭う。
匂い立つような白い肌は自分と同じソープの匂い。
カァっと、全身が燃えそうに熱くなった、と感じた。
目の前の、身体。彼女の身体。好きな相手の、たった一枚さえ除いてしまえば、露わになるだろうヌード。押し倒して、力任せにその身体を奪うことなど、簡単なんて言葉さえ笑えるほどに、簡単。
けれど自分は彼女の恋人ではない。カナダはこんなことをしてくれるけれど、彼女は、‥‥カナダは、カナダにとっては、俺は。
思考が飽和する。飽和する思考で、真摯に、必死に、自問する。思い出す。
バカンス先に遊びに来てくれる、一緒にテニスをして笑ってくれる、シャワーを浴びながらボディソープを貸してと手を伸ばす、セミヌードで隣に座ってくる、‥‥もの問いたげな目で俺を見つめてくる、髪を拭いてくれることにかこつけて俺に身体を寄せてくる、エロティックな体勢で、俺の眼前に、身体を、晒してくる。
(カナダ、ねぇ、俺のこと、どう思ってる?)
「‥‥アメリカ。‥‥ねぇ、私のこと、どう思ってるの?」
「世界で一番愛してる」
「なら、ちゃんと私に解らせて。今すぐに」
一秒さえももどかしく、彼女の身体を包んでいたバスタオルを剥ぎ取る。想像どおりそれはいとも容易く彼女の身体から剥がれ落ち、‥‥そして、これまで夢想してきたどのイメージよりずっと瑞々しく、美しく、可愛く甘くエロティックな身体を、アメリカは積年の想いを全て伝える覚悟で抱き締めた。
「‥‥んッ、も、いっつもアメリカ、肝心なところ、‥‥っで、ぁ、引くん、だもん」
「うん、ごめんよ。‥‥ねぇ、好きだよ」
「そんなの知ってたよ、知ってたけど、‥‥ァン!‥‥メリ、カ、がっ、ぁ、言ってこないからぁ‥‥っ」
「全く俺はとんだ臆病者だった、ヒーロー失格だね。‥‥愛してる。もっと触らせて、奥まで、イイ?」
「きゃぅ?!あ、あっあ、‥‥ン、で、‥‥も、いいよ」
「すごい、気持ちイイ、カナダ‥‥っ、ぁ、何が?」
ぴったりと、隙間なく肌を合わせて。
吐息を混ぜて、指を絡めて、頭の先から足の爪まで全てを、互いのものにしあって。
バスタオルの上に押し倒した彼女に圧し掛かってたっぷりとした胸を舐めしゃぶり、恥らって啼く柔らかで熱い身体にもぐり込み、彼女を抱き締め、抱き締められて。
快楽に蕩けて潤んだ瞳の彼女が、笑った。
「私の、ヒーローは、いつだってアメリカだったよ?今も、これからも、‥‥傍に、居て」
「勿論さ!愛してる、君の傍にいるよ、カナダ」
「あと、もうちょっと積極的にね」
「‥‥も、勿論さ。‥‥‥‥ねぇ、もう一回」
何がどうして、こうなったんだろう。
アメリカは真摯に自問する。そして自答。
曰く『俺が彼女を愛していて、彼女も俺を愛しているから』!
腕の中、甘い声で鳴く身体の恋人を夢見心地で抱き締めながら、アメリカは
幾度も幾度も愛しているよと、単純明快な答えを気長に待ってくれていた彼女へと、囁き続けた。
Gettin' in the Mood!
end.(2009.06.13)
リクエスト『にょカナちゃんの話 メリカがおっぱい的にイイ思いする』
いい思い‥‥いや、いい思いしてるよねいつもに較べたら!
いい加減アクション起こさないメリカにキレたカナちゃんが迫り倒すの図。
そしてこの続きというか、お母様とカナちゃんのらぶらぶバケーション編↓
『PINKY DINKY VACATION』
容赦なく英×にょ加です。気をつけてね!(笑)