今日一日、玄関先で。自宅へと続く道を上がってくる、荷車を引くエンジン音に耳を澄ます。
贈り物を、受け取る為に。太陽が昇って沈むまで。耳を、澄ます。
「マシュー・ウィリアムズさん。お届けものです」
「ありがとう」
贈り物は、嬉しいことだ。
庭の片隅で萎れた薔薇の花びらでも。
海辺で拾ってきた貝殻の、欠片でさえ。
嬉しいことだ。
凄く、嬉しい、ことだ。
「贈り物、嬉しい、な」
だから、声に出して言ってみる。
綺麗なカードに綴られた、綺麗な文字、綺麗な言葉を繰り返し、目で追う。
シックな包装を丁寧に解いて出てきたのは、瀟洒なフォトスタンドだ。かの国が誇る美しい湖水地方の写真がはめ込まれたそれは、とても綺麗なもので、きっと苦労して、凄く苦労して選んだのだろう。
実際、大した苦労だ。
「嬉しい、」
声に出して、言い聞かせる。
贈り物は、嬉しいことだ。嬉しいことの、筈だ。
美しい、当たり障りのない風景写真のはめ込まれた、フォトスタンド。
綺麗なカードに綴られた綺麗過ぎる文字は、代筆ですらない。大方、プレゼントを購入したデパートのサービスなんだろうな。きっと、このカードをつけることだって、凄く悩んだことだろう。本当に、ご苦労なことだ。
庭の片隅で萎れた薔薇の花びら一枚で、よかったのに。
そこらの海辺で拾ってきた貝殻の欠片で、よかったのに。
きっと、そんなもの贈るなんて、考え付きもしなかっただろう。
ああ、苦労をかけてしまった。
文字どおりの『自国』から『他国』への贈り物だなんて、人の身で気軽に選ぶには荷が勝ち過ぎるに決まってる。
贈り物は、嬉しいことだ。
瀟洒なフォトスタンド。美しい写真。綺麗過ぎる、祝いの言葉。
綺麗なだけの、あのひとの名を冠しただけの、贈り物。
律儀なものだと思う。彼の国の歴代秘書達は、本当にご苦労だ。
「嬉しい、贈り物、」
僕が嬉しい、贈り物なんて。簡単なのに。
彼の庭の片隅、萎れた薔薇の花びら一枚でかまわないのに。
手を振り払った愛しい弟を望む海辺で踏み砕いた、貝殻の欠片だって喜んで受け取るのに。
あのひとが選んでくれたものなら、なんだっていい、のに。
今日一日、玄関先で。自宅へと続く道を上がってくるエンジン音に耳を澄ます。
贈り物を、受け取る為に。太陽が昇って沈むまで、沈んでからも。耳を、澄ます。
真っ暗に夜に沈んだ玄関先。
来るはずのない贈り物を待って、来るはずのない金と緑の姿を、待って。耳を、澄ます。
もっともっと耳を澄ませば、大洋の向こうで泣く、あのひとの泣き声が聴けるだろうか。
the end.(2011.07.07/07.10改)
(その涙すら、僕を選んでのことではないことなんて、知っているけれど。)
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